片翼の行方


「ルディが帰ってきてるって?」

「はい。町に戻ってすぐに倒れたようです。風響様たちが運良く拾ってくださって。
 翼を抜く方はすでに終わったと。ルネさまがお勤めの病院に運んでます。
 出来れば、手術までもっていきたって仰ってました」

「、、、こんな形で手元におさまるなんてね」

「本当に。こんなことあるんですね」

写真屋を営むランス、そして同居人のアージュは驚くだけだった。偶然とはいえ、怪しまれずに手元におさめたのだから。

アージュの耳がピクリと動く。それは、エルフ特有の三角耳。

「髪にもう少し空気入れようか」

ランスは手ぐしで、耳を覆うように空気を入れた。

アージュはこのキエヌ側と有翼の世界を繋ぐ湖の精霊。そして風響の使い魔を務めている。

有翼側で共に暮らしていた風響が離れ、もう1人を失ってからは、ランスとともにキエヌで暮らしている。

耳を隠しながらではあるが、ここでの暮らしも板についてきた。

「それで、これからのことは何か言ってた?」

「アントワネットさんにお知らせするようにと。家に戻る前のことのようです。
 ルディさんのほうは手術を終わらせてキエヌに戻せばそこまでです。
 あとは風響様がご自分に宿しているキュリオさまの片翼を外にだすこと。
 シャルミラさまとキュリオさま立会いのもとで」

「アントワネットさんか。明るくつとめてるけど、かえって辛そうだ」

ランスは、仕立て屋の女主人でありシェルダン婦人を思い浮かべる。

ルディをソレアへ送り出してからを、さりげなく見てはいた。

不安を抑えている様子は隠し切れなかった。

「とりあえず、僕が手を出すことはなさそうだね。また何かあったら教えて」

「はい。あの、、、ランスさま」

「どうしたの」

「きっと、、、大丈夫ですよね。成功しますよね」

「アージュ、、、」

気丈ではあるけれど、今回の一件はそれ以上の不安を与えるのだろう。

ランスはアージュを抱き上げた。

「え、あの」

「アージュの大好きな人じゃなくて悪いけど」

「い、、いえ、、」

「大丈夫。ここまできて失敗なんてありえないよ。きっと、成功するから」

「、、、、、ありがとうございます」

ランスはアージュをそっと下ろした。

「さ、行っておいで。僕の分も頼むよ」

「はい」

迷いの無い微笑みとともに、アージュはアントワネットの店に向かった。


カラン。店のベルにアントワネットは顔を上げた。ルディからソレアをでたとの連絡を受けて以来、どうにも落ち着かない。

やってきたのは並びの写真屋に越してきたという、アージュだった。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ。あなた、確か写真屋さんにいるのよね。お名前はまだだけど」

「アージュです」

「私はアントワネット。1人できたの?」

アントワネットから見れば、アージュは幼い少女でしかない。

なのに、1人で引っ越してきたのが、不思議ではあった。

「あの、ルディさんですよね。こちらの」

「ルディ、、、ね、どうしてあなたが」

思いもかけないところから出てきたルディの名前には、さすがに驚く。

「え、、と、私の知ってる人が、具合悪そうだったルディさんを見つけて
 そのまま病院運んだって言ってました」

「、、、、、」

可能性としてはわかっていた。知らない場所で1人のときに倒れるかもしれないと。

それでも、こうして知らせが届いたことに、アントワネットは心から感謝していた。

「ありがとう。病院ってどこかしら」

「ルディさんを見つけた人、お医者さんなんです」

「え、、、」

「少し遠いですけど、その人が働いてる病院です」

「あ、、神様」

アントワネットにしてみれば奇跡でしかなかった。

ルディの前では見せまいとしていた、涙が落ちる。

「少し待ってて。すぐに出るから」

店を閉め、急いで荷造りをすませたアントワネットを連れて、アージュもルディの元に向かった。

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