夜も更けた頃、ヒユラは地下牢へと足を向けた。

さっきのルイスの様子から今年の贄が選ばれたであろうことはわかる。

2階分の階段を下り、暗闇に近い通路を抜け扉の前に立った。

見える人影は蜜を溶かしたような髪。

もたれたまま瞳を閉じている横顔に、ヒユラは息が止まりそうになった。

(どうして、、、今年の贄は兄さんだっていうのか?)

贄の選別に基準があるわけではない。

狩りを請け負った者の独断だし、それにしてもたまたま会ったからという場合だって
珍しくはなかった。

運が悪かったとしかいいようはないのだ。

無意識に扉に手が伸びていた。だが

「つ!」

扉の封印に弾かれた。バチと鳴った音にシャウルがヒユラを見た。

「、、、ヒユラ、、そんな、、」

シャウルもまた呆然とヒユラを見つめる。

だがすぐに思い返した。生きていたとしても、同じままではないのだと。

ヒユラに寄ろうとするが枷に囚われていては動くこともままならない。

その場からヒユラを穏やかに見ている。

「私の声が聞こえているかい」

「ああ」

「名前を訊いてもいいかな」

「、、、クウヤ」

どうしてヒユラと名乗らなかったのか自分でも解らなかった。

名乗ったところで、何をどう変えられるわけでもない。

今の自分はヴァンパイで、3日後にはシャウルを殺さなければならないのだ。

「君に訊いてわかることなのか、それすらもわからないけれど、、、
 私はどうして捕らえられた?ここはどこで、私はどうなるんだ?」

「それは、、、」

「私は、死ぬのか?」

その言葉に大きく鼓動が鳴った。ヒユラは夢中で駈け戻っていた。


「どうして、、、」

儀式の中止など言えるはずもない。一度決まった贄の変更も前例はなかった。

「どうにか、、、、、出来るのか?僕に、、、」

いつの間にか夜明けが近づいていた。昔と変わらない眼差しがいつまでも離れなかった。


一族が集まった広間。ルイス一段高い場所に、自分はその隣にいた。

目の前にシャウルが引かれてくる。

「ヒユラ、、、どうして、、」

言葉を交わすことは出来ない。ルイスが前に進み、シャウルを腕に抱いた。

3日間飲まず食わずだった身体は、シャウルの意志では動かせなかった。

髪の間から見えるうなじに口付けをおとす。そして

「ぐ、うあっ!」

絶叫が響く。

「、、、あ、、離し、、、ヒ、、ユラ、、」

「兄、、さ、、」

ぐったりともたれたシャウルから牙を抜き、ルイスが離れた。

支えを失い倒れこんだシャウルは指先ひとつ動かない。そのシャウルを数人が囲む。

「兄さん!」

耐え切れずに割って入った。

「、、、ヒユラ、、、」

「もう止めてくれ。これ以上は」

「やらなければいけないことだ。どうしようも出来ない」

ルイスの声が届いた。辛そうではあったが迷いはない。

「ヒユラ、離れてくれ」

「嫌だ」

「、、、仕方ない。お前まで手にかけたくはなかったが」

「あ、、、ルイス」

頬に伝う赤い涙。2人に向かって手が伸びる。シャウルを抱いて、ヒユラは眼を閉じた。


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