

「、、、う、、、ん、、」
意識が戻ったシャウルはゆっくりと周囲を見渡す。
僅かな灯りにようやく目がなれるとここが牢であることがわかった。
「そんな、、、誰か」
動こうとしたが体が追いつかない。
「何がどうなって、、、」
隣町からの仕事の帰り、人気の無い道でいきなり殴り倒された。
そのまま意識を失い、気がついたらこうなっていた。
自分がさらわれる理由など思いつかない。
身代金目的の誘拐なら見当違いもいいところだ。1人暮らしなのだから。
家族はすでにいない。数年前に生き別れた弟以外は。
「、、、死ぬのかな」
不思議なほど落ち着いていた。その時になったら分からないけれど今は。
ただ、自分がいなくなった後に生きていた弟が訪ねてきたら可哀想だと思う。
もう一度会いたかったと、それだけが浮かんだ。
「ヒユラ、、どこにいる」
出かけてくるといったまま、帰らなくなって何年がたつのだろう。
ヒユラの横顔を思い浮かべながら、シャウルは瞳を閉じた。
人の隣に行きながらも闇の中でしか生きられない命、ヴァンパイア。年に一度、一族が集まる夜がある。
命を繋ぐために必要最低限の狩りしか行わない彼らだったが、この夜だけは贄を用意した。
追われる身だからこそ同族との絆は強くなければならい。そのために必要な儀式。
一族を束ねるルイスの元に贄を捕らえたとの報告が来たのは、その夜の3日前だった。
「またこの日がくるのか。ご苦労だった」
報告を持ってきた相手を帰し、夜を見つめる。
届くのは仲間たちの悲しい声。
人との争いは終わることなく、憎しみや恐れは互いにとっての悲劇しか生まない。
共存が無理ならば、せめて互いの世界に関わらないよう静かに生きられないのか。
人の命を己の命の糧にする以上、叶わない望みなのか。
長い間続く問いは、終わることを知らない。
「ルイス」
「ヒユラ、、、いつからいたんだ」
「さっきからいたよ」
「そうか、、、」
ヒユラと呼ばれたのはルイスの半分ほどの身の丈の少年。
だが数年前から成長は止まったままだった。
「よくない知らせかい」
「いや、、、」
「もう集まる時期なんだね」
「ああ」
「僕たちが生きるためには必要なことだよ」
「そうだな。あれから何年たつのか、、早いものだ」
ヒユラは元は町に住む人間の子供だった。
数年前、町と町の境にある森で道を踏み外し崖から落ちたところを
ルイスに助けられたのだ。
だが人としての蘇生は手遅れだった。
その時から新しい命を闇の住人として生きている。
「ヒユラ、恨んでるか?私たちのこと」
「、、、どうして」
「この時期になると、お前は悲しそうだから。誰も寄せ付けずにただ一人で」
「それをいうならルイスだろう」
「、、、、、」
「助けてくれたことに変わりはない。恨んではいないよ」
扉の向こうからルイスを呼ぶ声がした。
「また後で」
ルイスが出て行く音を背中で聞く。
恨みも憎しみも、何も残っていない。ただ1つ気になるのは、生き別れになっている兄のこと。
今更会えるはずもないが忘れたことはない。
「、、、どうしてます」
穏やかに自分を見ている瞳。変わっていないだろう横顔を思い出していた。