

「まさか、ここで会うとはな」
「ここでやり合うつもりじゃないだろうな」
「関係のない相手を巻き込むつもりはない。明日の夕刻、森で待っている」
「、、、わかった」
言葉の少ない会話を終えて、オルフォは音もなく部屋を出た。
「ベルクさん、、何があったの?あの人は誰?」
告げてしまったほうがいいのだろうか。全てを。
自分が何者で、オルフォが誰で、明日何があるのか。
迷ったまま、ベルクは言葉がでない。同じように動けずにいたヘレナの背中を、ツギリが押した。
「兄さん、、、」
「後悔はさせたくないから」
そしてツギリも部屋をでた。
「昔から、、、ずっと昔から因縁のある相手だ。
いつかは決着をつけなきゃならなかった」
ベルクはヘレナの頬にそっと触れた。優しい穏やかな笑みが浮かぶ。
出会わなければよかったのか、敵と知らなければよかったのか。
どちらも違う気がした。あえていうなら、望んではいけない夢をみた報い。
「明日は、、、」
「明日、決着をつける」
それは己の命をかけた決闘になるだろう。
そして、自分が勝ったとしても二度と会わないと、ベルクは決めた。
「私も立ち合わせて」
「、、、、、」
「お願い」
「私が敗れても、そのまま戻れるか」
目の前でベルクの死を見届けることになるかもしれない。
理屈ではわかった。それでも、、、
「それでも、あなたがどうなったか解らないままでいたくない。ごめんなさい、、我侭で」
ヘレナはベルクを抱き返す。ベルクもまた想いを込めて。
「愛してる、、ヘレナ」
翌日の夕刻。約束の場所でベルクとオルフォが向き合う。立会いはツギリとヘレナ。
「立会いが誰であれ、手加減するつもりはないからな」
「わかってる。こっちだってそのつもりだ」
オルフォは剣をぬいた。
「ベルク、決着をつけさせてもらう」
「お前になら、狩られても恥にはならないな」
「やる前からそのつもりか」
「まさか。腕の立つ相手と認めるからさ」
ベルクもかまえた。そして、死闘が始まる。
不気味なほどの静寂が包む森に、激しくぶつかり合う音が響いた。手にある剣を挟み顔を合わせる。
「長かったな」
「ああ、、、一番やりたくなくて、一番やりあわなきゃいけない相手」
互いの腕を認め合うからこその真剣勝負。気の遠くなるような、永遠かと感じられる時間が、、結末を迎えた。
宙に舞ったのはベルクの剣。
「、、、私の負けだ」
それでも、何処かでほっとしていた。長い間引き連れていた何かが手を離れたように。
ベルクはツギリとヘレナの前に立つ。
「短い間だったけど、世話になったな。ありがとう」
「私たちこそ助けられました。叶うなら、いい友人になりたかったけれど、、
いや、義理の兄弟かな」
「ツギリ、、、」
「ベルク、、、」
ベルクは小さなペンダントをヘレナの手に乗せる。
「持っていてくれないか。私のこれと対になるものだ」
そういうベルクの胸元には、同じ形で色違いのものがあった。
「ベルク、、、」
自分の胸に顔をうずめたヘレナを一瞬だけきつく抱き
ベルクは身体を離す。
「このまま戻れるな」
「、、、会えてよかった。あなたが何処の誰でも」
「幸せに、、私の分も。ツギリ、行ってくれ」
「ヘレナ、行くよ」
「、、、、、また、、ね」
それがないだろうことはわかっている。それでも、さよならとは言いたくなかった。
最後に微笑を渡し、ツギリとヘレナの姿が消えた。
残像を見つめていたベルクは大きく息をつくとオルフォの前に戻る。
「この首、落としてくれ」
「、、、、、」
「今更、迷うなよ。、、、、同じ親を持つダンピールでも、信じた生き方が違った。
それだけだろう、兄さん」
そして、背を向けると静かに座り髪をわけうなじを晒す。
首筋に剣先が乗った。
最後に見たヘレナの微笑を胸に抱きとめ、ベルクは瞳を閉じた。