時は流れた。眺めのいい丘からベルクは同じ場所を見る。

首に当てた剣をオルフォは収めた。何故と問うベルクに「ただの気まぐれ」と告げ、以来顔を合わせてはいない。

生き延びて、見続けてきた。己の存在は知らせぬままで。

「ヘレナ、、、」

小さな呟きを風に乗せる。

風に吹かれるベルクの背後でカサリと音がした。

振り向いてみれば、そこにいたのは小さな子供。

ベルクの姿に一瞬驚いた様子を見せるも、無邪気な笑顔を浮かべ隣にちょこんと腰を下ろす。

「あなたもここが好きなの?」

「、、、まあな」

警戒の欠片も見せない様子に多少呆れながら、改めて子供を見たベルクは思わず息を止めた。

「それ、、、」

ベルクの眼に留まったのは小さな天使のペンダント。

「これ?おばあさまにもらったの。大切なものだから大事にしてねって」

忘れるはずがない。別れの時に渡したそれを。

自分もまた母から受け継ぎ、そして大切にしたい相手に受け継がれるべきもの。

「君のおばあさまは、どんな人なんだい」

「優しくて、いつも僕のこと抱きしめてくれる。
 おばあさまが作ってくれるお菓子が大好き」

「幸せなのかな」

「幸せ、、そう言ってたよ。大切な人がたくさんいるって。
 僕の父さまや母さまや僕のこと、、でもこれをくれた人は
 特別な、少し違う大切な人なんだって」

「、、、そうか」

ベルクは自分のペンダントを小さな手に乗せた。

「君にあげるよ」

「、、、同じ天使さまなの?」

「この二つは同じ場所にあるほうが綺麗に光るんだ。
 だから持っていて欲しい。駄目かい」

「おばあさまにこれ渡したのあなたなんだ。僕、ヨハン」

「私はベルク」

「ねぇ、家に来て。おばあさまも喜ぶよ」

「いや、会わないほうが」

と、ヨハンを呼ぶ声が風に乗って届いた。その声にヨハンはベルクに背を向ける。

「おばあさま。ベルクさん、あ、、、」

再びベルクへと向きを変えたが、すでに姿は消えていた。

暫くしてヘレナがヨハンの元にたどり着いた。

「そろそろ帰りましょう。帰ったらおやつにしましょうね。どうしたの?」

「これ、、」

差し出した手の平には、ベルクの胸にあったペンダント。

「これ、、、どこで」

「今までいたのにいなくなっちゃった。貰ったの」

「お名前聞いた?」

「ベルクさん。この二つは同じ場所に在るほうが綺麗に光るって言ってた。
 おばあさま、、泣いてるの?」

「、、、、ベルク、、、生きてたのね、、よかった」

僅かに角度を変えた陽の光が2人の天使を輝かせる。

「わあ、、綺麗、、ほんとに光ってるよ」

ヨハンは手の中で光輝く天使を嬉しそうに見ていた。

「これはヨハンが持っていてね。そのほうがきっといいわ」

「うん。大切にする」

「今日のおやつはヨハンの好きなチョコレートのパイね」

「やった」

ヨハンの手を引き歩き出した。

会うことはないだろうと思う。けれど、想いは抱いたままにと願った。

(ありがとう。あなたが、、好きよ、、ベルク)

心の中で祈り、瞬間だけ瞳を閉じる。

耳元を凪いで吹く風の中に、かすかにベルクの声が聞こえた気がした。



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