

夜遅く、知らぬ相手を連れて返ったヘレナに、使用人たちの驚きは相当なものだった。
それを何とか説き伏せ屋敷へと入る。
ベルクはそのまま台所へ、ヘレナは兄の部屋へと向かった。
静かに扉を開ける。ベットの上ではツギリが荒い呼吸を繰り返していた。
「兄さん、、、」
「う、、、ん、、ヘ、、レナ、、、」
呟くもうわ言に過ぎず、瞳は閉じられたまま。
そこに扉が開く音がした。草と土の混ざったような匂いが鼻をつく。
「起こせるか」
「兄さん、聞こえてる?起きて」
「、、、、ん、、、」
ゆっくりと開いた瞳は艶があると見えるほど潤んでいる。
それだけでも、かなりの高熱を出していることがわかった。
ベルクは持っていた薬を渡すとツギリの視界から抜ける。
「薬できたわ。飲める?」
受け取ったそれに匂いに眉をひそめるも、どうにか飲み下すと再びベットへと沈む。
「一晩寝れば落ち着くはずだ」
「あ、あの、いてくれませんか。せめて兄さんが目覚めるまで」
「家族は?」
「母さんは、もういません。父さんは商用で家を空けることのほうが多くて
ほとんど兄さんとだけです。兄さんに何かあったら、、ごめんなさい」
押し殺してきた不安が限界に達したのか、ヘレナの瞳からは涙が落ちていた。
「、、、今夜は私が看ている。もう休め」
「いてくれるんですか」
「目が覚めるまではこっちの責任だろうからな」
「ありがとうございます。そしたら必要なものを」
「いい。この部屋にあるものを適当に使う」
もう出て行けと言わんばかりに、ヘレナの言葉を遮る。ヘレナもこれ以上聞こうとはしなかった。
「わかりました。明日の朝にまた来ます。お休みなさい」
「お休み」
ヘレナを送り出し鍵を下ろすとツギリの横顔を見つめる。真っ直ぐ伸びた髪の間から華奢なうなじが見えた。
フイと視線を外し部屋を見渡す。
キャビネットの中のボトルを見つけるとそれを取り、そのまま運ぶと喉を鳴らした。
「ふぅ、、、人助けなんて何をやってるんだか、、馬鹿馬鹿しい」
自分を笑うように呟きソファーに身を投げる。夜が静かに流れていった。
翌朝。
「う、、、ん、、」
小鳥の囀りが耳に届く。
「朝、、、楽になってる?」
急に体調が悪くなったのは昨日のこと。
いつもなら2,3日は続く熱がおさまり、自分でも驚くほど安定していた。
そして部屋を見れば、テーブルには半分ほど空いたボトルがあり、ソファーには見知らぬ銀色の髪を持った誰かがいた。
「あの、、どなたですか」
ツギリの呼びかけにベルクはソファーを下りた。
「落ち着いたみたいだな。私はベルク。何があったのかは妹に訊いてくれ」
そういうとソファーに戻る。ツギリもそれ以上は訊けずに無言のまま時間が過ぎた。
暫くして、部屋の扉を小さく叩く音がした。
ベルクが扉を開けると、いたのはヘレナ。
「おはようございます」
「おはよう」
そしてヘレナの目の前を空ける。
「兄さん、、、」
ベットに座り、落ち着いた様子のツギリが自分を見ていた。
駆け寄り、ツギリの胸元へそっと耳をあてる。
「よかった、、、」
「心配かけて悪かった。ヘレナ、この人は」
「ベルクさん。兄さんが落ち着いたの、ベルクさんのおかげよ」
ヘレナは昨夜のことを話し始めた。薬草を取りに行った森で助けられたこと。
ベルクが手持ちの薬を持ってここに来てくれたこと。
その薬が効いて一晩で落ち着いたことを。
「そうでしたか。妹共々お世話になりました」
「いや、、」
「ヘレナ、何か飲むものをもらえるかな。喉が渇いてる」
「すぐ持ってくるわ。ベルクさんもお茶でいいですか」
「任せる」
「じゃあ、摘んだばかりの一番いい葉にしますね」
部屋を出るヘレナは、昨夜の落ち込みようが嘘に思えるほど、軽い足取りだった。