

空が茜色に染まる。鮮やかなその色を、ヘレナは茂った葉の間から眺めた。
ここまで近くなれば陽が落ちるのは時間の問題といえた。
「急がなきゃ」
手にしたかごには必死で探した薬草がある。それを大切に抱え一歩を踏み出したとき
「え、きゃっ」
僅かに浮き出た木の根元に足をとられた。起き上がったところに風が吹きつける。
ようやく目の前を見れば、摘んだばかりの薬草はそのほとんどが風に運ばれていた。
「そんな、、、、」
今からもう一度探すだけの時間があるだろうか。夜の森には近づくなと、嫌というほど言われている。
迷っている時間すら本当はない。
それでも、ヘレナは戻ることも探しに出ることも出来なかった。
「何をしている」
不意に声が届いた。
眼の前にいたのは白銀の髪をした見知らぬ相手。
「あの、、」
「もう陽も落ちる。娘が1人でいるような場所じゃないだろう」
「ごめんなさい」
「謝れとは言ってない」
かみ合わない会話が途切れる頃には、太陽がその姿を消そうとしていた。
「とりあえず来い」
「何処へ、、」
「一晩くらいなら宿を貸すといっているんだ。
野生の獣の餌にはなりたくないだろう」
「嫌です!」
白銀の相手はヘレナの手を取った。
「私はベルク。お前は」
「ヘレナ」
ヘレナの手を取り、夜の道を易々と進む。暫くすると月光に照らされた館へとたどり着いた。
「それで、最初に戻るが何をしていた」
「薬草を探していたんです」
「あの時間にか?」
「あの時は集め終わって戻ろうとしていたの。
でも木の根につまずいて、落としたかごごと風にさらわれたわ。
どうしようか、、考えていたところです」
「何を探していた」
「呼吸を楽にできる葉。兄さんが、もともと丈夫じゃないけれど特に気管支が弱くて。
季節の変わり目になるとすぐに寝込んでしまう。薬草を集めに来るのはいつものことです。
でも今年は数が少なくて見つけるのも大変だった。やっと、、、」
一気に喋り終わるとうつむいてしまった。
ベルクはそんなヘレナを見ながら思い返してみる。
「それなら、、、」
「あるんですか」
ヘレナは勢いよくベルクを見返した。
「似たような作用を持つ葉ならある。
ただ、あれは加減が難しい種類だからな。
慣れない人間が調合すると、薬どころか毒になる可能性のほうが高いぞ」
「ベルクさんは薬が作れるの?」
「今までのは毒にはなっていない」
「家に来てください、兄さんを助けて」
他人と関わりたくはない。それがベルクの本音だった。
かといって、突き放したところで諦めそうにもない。
「お願いします。できる御礼なら何でもするから」
根負けしたのはベルクのほうだった。
「わかった。行ってもいいが、今出るぞ」
「今すぐに?」
「そういう事情なら早いほうがいいだろう。
それにお前が戻らないと余計な心配が増えるんじゃないのか」
「あ、、、」
「材料だけ取ってくる。待ってろ」
ベルクは部屋を出ると、暫くして袋詰めにした葉を持って戻った。
そしてヘレナの家へと、夜の森に足を向けた。