翌日。目が覚めたミレーヌはファウロを探す。

だがいくら探しても姿はなく、代わりに見つけたのは、朝だというのに分厚いカーテンを下ろしている人影。

ミレーヌに気がつくとその手を止め、目の前に来て礼儀正しい一礼を返す。

「おはようございます。お休みになれましたか?」

「ええ、、あの、、、」

「私はエステバリス。ミレーヌ様のお名前はファウロ様より伺っております。
 街へ戻られるならば送るようにと申し付かっておりますが、お心は決まりましたか」

「戻るつもりはありません」

「、、、そうですか。承知いたしました」

「ファウロさんは、まだ眠っているんですか」

「まだというか、先ほど眠りにつかれたところです。
 何も、、聞いていらっしゃらない、、、?」

「名前しか」

自分からファウロの正体を明かしていいものか、エステバリスは迷った。

考え込んでしまったエステバリスにかける言葉が見つからず
ミレーヌも黙って待つ。沈黙を破ったのはエステバリス。

「ファウロ様は、古より夜の闇の中で生きてきたヴァンパイアでいらっしゃいます」

「、、、ヴァンパイア、、、?」

「はい。けれどミレーヌ様、これだけはわかってください。
 ファウロ様はご自分の歓楽のための狩りはなさいません」

その言葉の意味が呑み込めず、ミレーヌは首をかしげる。

「一族の中には自分が楽しむためだけに狩りを行う者もおります。
 けれどファウロ様は生きるための必要最低限の狩りしかなさいません。
 他の命を己の命の糧にするのは人とて同じこと。
 これだけはご理解いただきたいのです。、、、あの、、何か?」

微笑んだミレーヌに、今度はエステバリスが首をかしげた。

「ファウロさんのこと、大切に思ってるんですね」

「私はファウロ様の使い魔。ファウロ様は唯一絶対の主ですから」

「でも、ただの義務だけじゃないように思います」

「、、、これ以上はご容赦を。失礼します」

向きを変え、逃げるように立ち去るエステバリスが、ミレーヌは寂しそうに見えていた。


太陽が沈み月が昇る頃、城の一室に眠るファウロが目を覚ます。

月光が差し込む廊下を抜けると、いつも同じ部屋で同じ酒をあけていた。

その部屋の扉を叩く短い音がした。

「入れ」

エステバリスだと思ったファウロは入ってきたミレーヌを見て手を止める。

「戻らなかったのか」

「私が戻ったら、きっと次の誰かを探します。
 私のことを気に入らなかったのだと思って。それだけ、恐れてる。
 街の皆がこれで安心できるなら構いません。
 、、、兄さんだって、わかってる」

「待っている誰かがいるのなら、戻ったらどうなんだ」

「私が戻ったら、兄さんまで何を言われるか。
 だから、、いいんです。これで」

そう答えるミレーヌは手を硬く握り締めたまま、笑ってみせた。

だがそれは一番悲しい笑顔でもある。

ファウロはミレーヌをそっと包んだ。

「あ、、の、、」

「そんな顔するな、、、」

触れれば壊れそうな、硝子細工に思える。

「我慢しなくていい」

「、、、ごめんなさい、、一度だけ、、」

こぼれる涙は夜の闇にとけていく。

そこに、別れの言葉をのせながら。


翌朝、丁度目が覚めたミレーヌのもとにエテバリスの声がかかった。

「おはようございます」

「おはようございます。いい香り、、それは?」

エステバリスが運んできたのは、お茶と鍵の束。

「この城の鍵です。好きに使って構わないと、ファウロ様より言付かっております」

古びた鍵がいくつも連なっていた。実際やることはないのだし、気晴らしにはなるかもしれない。

「わかりました。ありがとう」

「それと、これは私から」

手渡されたのは小さなベル。

「御用のあるときはこれを鳴らしていただければわかります。それでは」

丁寧な礼をすると部屋を出て行った。温かいお茶で一息入れ、身支度を終えるとミレーヌは鍵を持って部屋を出た。


  BACK    NEXT