

深く茂った木々の葉が昼でも光を遮る森。その奥に、いつからとも知れず古城があった。
そしてそこには、白髪赤眼の魔物が住んでいるという。夜の闇に浮かぶ赤い瞳を、人々は恐れた。
恐れは妄想を生み、時間をおかずして街の人々にとっての、偽りの真実にすり替わる。
いつしか、人々は贄を差し出すようになっていた。若い娘と引き換えに魔物が災いをもたらさないよう願って。
いつから始まったのか、いつ終わるのかも分からなくなった頃の物語。
陽が暮れかかった山道をミレーヌは歩いていた。目の前を飛ぶ鳥を追って。
森に住む魔物への貢物。
それは、あの街に住む娘なら誰でも覚悟をしているはずだった。
すまないと謝りながらも、どこかで安心している。自分とて同じことだったのだから。
「まって、、少し、休ませて」
鳥に向かって話しかける。どれくらい歩いてきたのか、足を動かすのもやっとだった。
鳥が方向を変えた。見失わないよう必死で後を追う。
そして出たのは湖のほとり。両手ですくうと乾いた喉に流し込む。
腰を下ろすと靴を脱いだ。歩きとおした足が熱をもっていた。
「まだ、、かかるの?」
答えがないことはわかっていても、無意識で呟いていた。
不意に茂みが動いた。ぴくりと身体をすくませ音のした方向を見つめる。
姿を見せたのは白く輝く髪と赤い瞳を持った若者だった。
街で伝えられているとおりの姿を目の前に、ミレーヌは言葉がでない。
だが不思議と恐れはなかった。
鳥は若者の周りを旋回すると、役目は終わったといいだたげに夜の森に消える。
若者はゆっくりとミレーヌに歩み寄る。
「街から来た娘というのはお前のことか?」
「そう、、です。あ、あの」
若者はミレーヌを軽々と抱き上げた。
「これ以上歩くのは無理だろう。おとなしくしてろ」
ろくに前も見えない夜の道を、平坦な道を歩くようにすいすい進む。
やがて、月光に聳え立つ古城が映し出された。
城の一室へ運び入れソファーへと下ろす。
「名前は?」
「ミレーヌ」
「戻りたければ、街へ戻れ」
「、、え」
それは思いもしなかった言葉だった。
自分を見ている赤い瞳から何かを読み取ることは出来ない。
「いつからこんな話になっているか知らないが
私から人質を差し出せなどと言った覚えはない」
「でも、昔からそうしてるって、、
じゃあ今までここに来ていた人たちはどうなったんですか」
「わからん。私がここに来たときは誰もいなかった」
「私が来ることはどうして」
「古い、いつのかは分からないが日記のようなものがあった。
街から来る花嫁のことが書かれていて、使い魔に街の様子を探らせてみれば
森に住む魔物に若い娘を差し出さなければ、災いをもたらすと。
そう信じられているそうだな」
「、、、皆信じてます。私も信じてた」
「どうするかは好きにしろ」
「あの、あなたの名前」
「、、、ファウロ」
それ以上の言葉を投げる隙を与えずに、ファウロは部屋を出た。
「街へ戻る、、、」
街へ戻り、もう人質を差し出す必要はないのだと、そう言ったところで信じるだろうか?
どれだけ魔物を、ファウロを恐れているか知っている。
自分が戻れば、気に入らなかったのだと、新しい誰かを探すだろうと思った。
「いいのよ、、、決めてきたんだから」
それが、ミレーヌのだした答えだった。