宵闇草子


「出歩けるまで回復すれば一安心か」

「本当にありがとうございました。弟の蛍雪です」

「初めまして」

「ロバートだ。座ってくれ」

白竜は蛍雪の手を取り、ゆっくりと導いた。

座らせると、自分も隣に腰を下ろす。

「お気づきだとは思いますが、弟は見えていません。
 失礼があったときは、私からお詫びします」

「兄さん、、、、」

「見えていようがいまいが、礼を欠く人間には関係ない。
 そこまで考えることはないだろう。
 しかし、これだけの間を置いて
 リアス熱の患者がでるとは思わなかったな」

「ロバートさんがいなかったらどうなっていたか。
 本当にありがとうございました」

蛍雪は深く頭を下げた。

「私というよりはセナだろう。
 セナが知り合い私に話さなければ
 この結果はなかったのだから」

「私も弟も、セナさんに助けられたんですね」

「セナも気にしていた。回復していると伝えておこう」

「あの、セナさんにお会いしたいのですが」

「ん、、、、」

白竜の言葉に、僅かだが眉が動いた。

「僕たち、直接セナさんにお会いして、お礼を伝えたいと思っています。
 セナさんの住まいをご存知ではありませんか?」

セナが住むあの鳥かごは自分が与えたもの。

セナとこの2人が会うのはかまわないが
鳥かごに他人を入れたくない。

「連絡はつけられるが、住まいを教えるのは無理だな。
 ま、、、そのうち店に寄らせてもらうよ」

「そう、、、、ですか」

蛍雪は少し肩を落とした。

「本当にありがとうございましたって、伝えてください」

「弟も落ち着きましたし、店でお待ちしています」

「キエヌに来る前はどこにいたんだ?」

「あの、、、それは」

言葉を濁した白竜に、蛍雪も口ぞえをする。

「あまり以前のことは話せないんです。
 お世話になっておいてすみませんが」

「申し訳ありません」

「そうか。話せないことの一つや二つくらい
 誰にでもあるだろう。別にいい」

この2人が持つ何にセナが惹かれているのか。

知りたい気持ちも無くはないが
言いたくないものを無理に聞き出そうとも思わない。

セナという鳥を手にしていられれば。

「病み上がりだ。長話も疲れるだろう。かえって気を使わせてしまったな」

「あの」

「ん?」

「あなたに触れてもいいですか」

「別に構わないが、何か意味があるのか?」

「自分と話している人が前にいるって
 それを、感じたいんです」

「、、、、なるほど。
 見えていれば存在を疑うことなどしないだろうが」

「いえ、あの、疑うとかそんな」

「悪く取るな。私にはわからないものがあるんだろう」

ロバートは自分から歩み寄り蛍雪の手を取った。

「セナさんと同じ、あったかい」

「(暖かい手は冷たい心の持ち主だというがな)」

「本当にありがとうございました。
 兄さん以外の誰かと会えてよかったって
 お2人には、そう思えます」

「買いかぶりだろう」

「そんな」

「信じるのなら、常に傍にいてくれる相手だけにしておけ」

「ロバートさん、、、、?」

「蛍雪、そろそろお暇しよう。
 仕事中に会っていただいたのだし」

ロバートの表情から白竜が読み取ったのは拒絶だった。

これ以上、想いの中に入ってくるなと。

何を求め何を拒むかは、各々の心で違う。

「うん、、、、失礼します」

会釈を最後に、2人は部屋を後にした。


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