宵闇草子


翌日、ロバートの言葉通り昼過ぎに薬が届いた。

持ってきたのはセナ。

「一日一本で3日分。量は守ってね」

「ありがとうございます」

「、、、、セナ、、、さん、、」

細い声が呼んだ。セナは手を重ねる。

「百人の気休めよりも
 お兄さんがいてくれることが希望でしょう。
 、、、信じられるものをとことん信じればいい」

セナの言葉に蛍雪は頷いた。

長居は無用だろうと、セナは頷き返し切り上げた。

「それじゃ、お大事に」

「はい。ここで失礼します」

一礼でセナを送り出し、白竜は薬を手にした。

「いいな」

「う、、ん、、、」

結末を知るのは見えぬ神のみ。

抱き起し口元にあてた。喉が鳴り、流れ落ちてゆく。

「蛍雪、、、」

「、、、、ん、ぐ、、げほっ!」

「蛍雪!」

蛍雪は胸を押さえてベットに倒れこんだ。

「は、、、うっ、、、」

人の血脈は薬を受け入れ、妖しは拒む。

体の中で異なる血がせめぎ合い
蛍雪をぎりりと締め付けていく。

「に、、い、、、さ、、あう」

「隣にいる。離れないからな」

「助け、、、く、、、どこ、、」

見えぬ目で探し、手は空に伸びる。

ベットから落ちそうな蛍雪を、必死でとどめた。

「、、い、、、いた、、痛いっ、、、」

「蛍雪、、、、、」

白竜にできるのは隣に添うことだけ。

ただ、願うだけだった。


「落ち着いてきたな」

「一本目の時は助からないかと思ったけど、よかった」

あのせめぎ合いの後、人としての血が妖しの血に打ち勝った。

体力はかなり落としていたが、熱は下がり顔色もよくなっている。

「僕でよかった」

「蛍雪」

「兄さんだったら、人の薬は毒になってたかもしれない」

そう思うと蛍雪は怖くなる。

このキエヌで白竜に薬が必要になったら、と。

「もし兄さんに薬が必要になったらどうすればいいんだろう。
 そもそも、、、、妖しって僕たちの父さんて何だろうね」

「考えてもわからない。
 今更知っても、意味など無いよ」

人里で自我が目覚めた頃には他人の手で生かされていた。

生まれながらに罪を背負い、疎まれながら。

妖しである父、人である母。顔も名前も知らない。

「人は妖しの住む里を攻め落とした。
 でも、報復を恐れて自分で自分の住む場所を荒廃させた。
 攻め込まれた妖しはどこに行ったんだろう」

「行ってみたいと思うか?その場所に」

「たどり着いたとしても、この目じゃ何もわからないよ。
 知りたいって、思うときもあるけど」

蛍雪は探りながら手を当てた。

「この目が見ていたのは、疎ましげな眼差しと
 僕を心配そうに見ている兄さんだけ。
 屋敷からはまともに出してもらえなかった」

「蛍雪、、、、」

「この町はどんな色なんだろう。町に咲いてる花。
 人の笑った顔。セナさん、、、、見た、、、か、、、」

「もういい」

「兄さん、、、、」

わかっている。光が戻ることは無い。

なのに何故、心は求めてしまうのか。

「、、、ごめ、、、ん、、」

「謝るな」

「わかってる、、、、
 何を言っても苦しめるだけだって、、、なのに、、、」 

「泣いていいよ」

押し殺していた雫が伝う。

「受け止める。どんな涙でも受け止めてやる」

「う、、、、うああっっ!」

白竜の腕の中、悲しい慟哭が響いた。


更に数日が過ぎた。

「兄さん、薬を譲ってくれた
 ロバートさんと連絡取れるの?」

「ああ、、、、連絡先はわかるけど、どうした」

「お礼、言いに行かないと」

店の利権が担保になっていることは伏せ
セナを介して、ロバートから譲り受けたことは伝えた。

「ちゃんと言いに行くよ」

「僕も連れて行って」

「まだ静かにしてたほうがいいだろう」

「大丈夫。
 随分楽になったし、逆に少し動かないと」

「、、、、、」

「遠いの?」

「馬車を使えばそうでもない」

「だったら、遅くならないうちに行こう。
 セナさんにも、直接会ってお礼言いたい」

「わかった。無理はするなよ」

「うん」

2人はロバートを訪ねた。


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