宵闇草子


「落ち着いたんだ」

「あの2人からみれば、私は善人らしい」

「一応は助けたことになるからね。
 ロバートにとっては商談だろうけど
 、、、、、煙草、変えたの?」

「わかるか」

「いつもより残り香が強いよ。でも嫌いじゃない」

セナは肌を寄せる。

いつもと違う香りが、鼻先をくすぐった。

「お前が、あの2人の何に惹かれているのか
 それを考えてみたが、わからなかったな」

「ロバート」

「どこからキエヌに移ったのか
 それすらも話せないそうだ。
 まあ、酒場を預かるくらいだから
 追われているわけではあるまい。 
 しばらく、向こうの酒場にも行っていないな。
 時間が取れたら行くぞ」

「わかった」

セナの手がロバートの胸板に乗った。

「僕の手って、あったかいの?」

「、、、、、」

「手があったかいと、心は冷たいっていうよね」

「同じことを言われたよ。
 目が見えていないと
 触れることが確かめる術なんだろう。
 私の手はどうだ」

「あ、、、」

セナの肌に指を滑らせる。

「ん、、、ふ、、、」

「所詮は似たもの同士か。主と鳥は」

「ロ、、、バート、、、、っ」

切なく己の名をさえずり
艶やかな瞳で見つめてくる極上の鳥。

「セナ、、、、、」

同じ刹那を求め、深い夜へと沈んでいった。


同じ頃、やはり闇の中で命を繋ぐものがいる。

「ん、、、、兄さん、、、」

「、、、、」

「くぅ、、、あ、、、、」

深く打ち込まれるだろうと覚悟はしていた。

だが、深くはあったものの
白竜はいつもより時間をかけた。

急速に持っていかれるよりも
緩やかに時間をかけたほうが、まだ負担は少ない。

そんな白竜の思いに蛍雪も気がついた。

「兄さん、、、いいよ、、、僕は」 

蛍雪の言葉に一瞬白竜が止まる。

「僕のために、ずっと、耐えてくれた。
 僕なら、もう大丈夫だから」

「蛍雪、、、、、」

「だから、我慢しないで」

一度抜いた牙を再度沈める。

それでも、できるだけ負担の無いよう慎重に。

「(、、、、ありがとう)」

蛍雪の呟きを内に留め、牙を抜いた。

「苦しくないか」

「大丈夫」

「温かいものでも持ってこよう」

「、、、、あの時、ロバートさんのこと怒らせたのかな」

お茶を用意していた白竜は、手を止めて隣に座った。

「別に機嫌を損ねたわけじゃない。気にするな」

「あれ、どういう意味だったんだろう」

「ん?」

「信じるのなら、常に傍に居る相手だけにしておけって」

「、、、、、」

「僕の味方になってくれるのは兄さんだけだった。
 僕たちみたいな生き方してたら、当たり前だろうけど
 ロバートさんも、あまり他人を信じてないってことかな?
 味方になってくれる人が身近にいなくて
 信じてるのは自分の力だけ」

ロバートが見せた顔を思えば
蛍雪の言葉が的を得ているのかもしれない。

同じ境遇に置かれても、心は各々が作り上げるもの。

様々な要因で異なる変化を遂げていく。

逆に違う境遇にある他人が
同じような心を作ることもあるのだろう。

「妖しも人も感情を持ち心がある。
 ただ、彼がどんな生き方をして
 彼の心が何を求めているのかは、彼だけが知ることだ」

「うん、、、。セナさんと2人でお店来てくれるといいね」

「その時は店で一番いい酒を出そう」












夜の小さな灯りのように、生まれては消える様々な想い。

また一つ、宵闇の中で静かに綴られていった。


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