宵闇草子


「異常は見られません」

定期健診の結果は良好。ロバートはシャツを戻す。

持病はないが、抱えの医者の検診は欠かさなかった。

医者はすでに老齢といえるが腕は確か。

まだまだ現役に不安は無い。

そんな老医師が珍しく深刻そうなため息を落とした。

「何か気になることでも」

「いえ、、、あなたのことではないのですが」

「珍しく深刻そうですね」

老医師のところにやってきた、とある患者。

その来訪は、過去の悪夢を予感させた。

これ以上進行する前に食い止めなければ
キエヌは、また闇に包まれる。

「あなたはキエヌの生命線を握っているお方。
 上下水道、ガス等の運営会社をお持ちですね。
 その中には製薬会社も」

「まあ、否定はしませんが」

「そのお力で、キエヌを救っていただきたいのです」

老医師は、ロバートにその役目を託すことにした。


いつもと同じようにロバートを待つ夜。

酒の代わりにお茶をいれ、本を広げていた。

そこに聞きなれた足音が聞こえ、ロバートが部屋に入った。

「お帰り」

「お前がこの前送ったという男。名前は聞いたのか」

「何、いきなり」

唐突すぎる問いの意味はわからないが、拒む理由も無い。

セナは2人を思い浮かべた。

「上は白竜。弟は蛍雪だったかな。まさか、会ったの?」

「弟は全盲。2人暮らしか。、、、同じだろうな」

「ロバート、あの2人がどうしたっていうのさ」

ロバート以外の誰かに興味を示したことが
気に障っているというのだろうか。

「怒ってる?」

ロバートはセナの隣に座った。

「知り合いの医者のところに、その2人が来たそうだ。
 くだった診断はリアス熱」

「あ、、、、」

やはりと、セナは心の中で呟く。

「やっぱり、リアス熱か」

「気づいてたのか?」

「症状聞いて、もしかしたらとは思ったけど」

「一段落したと思ったら、また忙しくなるな」

「どうしてロバートが」

「まだ流行まではいっていないが
 元帥府にも発症の報告が届いた。
 備蓄はほとんど無い状態だ。
 案の定、増産命令がきたからな」

「製薬工場なんて持ってたんだ。じゃあ、手に入るの?」

「市場には出していないが、少量ならある」

あの2人を助けられないかと
言いそうになった言葉を飲み込んだ。

これ以上肩入れすれば、機嫌を悪くさせるに違いない。

だが、セナの心を見透かしてかロバートから助け舟を出した。

「あの2人を助けたいか?」

「ロバート」

もし蛍雪がこのまま命を落とせば白竜は後を追う。

させたくないという気持ちは、確かにセナの中にあった。

その代償にロバートが自分を求めてくるのも構わないが
抱くだけならばいつもと同じことだ。

ならば、ロバートはあの2人を助ける代わりに
何を求めてくるのだろう。

「助けたいって、思ってるのは確かだよ。
 でも、その見返りは何?僕を抱くだけじゃないでしょう」

「こっちから断る。結果は同じだとしても
 他の男の影を潜めたお前を抱きたいとは思わん」

「、、、、じゃあ、何」

「正規の値段に幾らか上乗せして買い取らせるだけだ」

「え、、、、」

「市場に出る前のものを渡すんだ。
 追加料金があって当然だろう。
 元が安いものじゃないから、それなりに値は張るがな」

「ロバート、、、、」

くいと引かれ、ロバートの腕に収まる。

「他の誰かのために抱かれようなどと考えるな。
 お前はただ、この鳥かごで私のために美しくあれ。
 さえずっていろ」

ロバートのため。琴線が揺れ、甘い蜜に包まれる。

心地よかった。だが、鳥は鳥。

「僕はあなただけのもの。他の誰かなんていないよ」

唇が重なった。


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