宵闇草子


ロバートと2人の夜。

かごの鳥と主という関係に対し、何かを考えたことはなかった。

考え始めて、自分から何かを求めて、今が変わることが怖い。

紛らわせたくて、セナの手は酒に向かう。

「セナ、それくらいにしておけ」

さすがにこれ以上はと、ロバートは止めた。

「酒が飲みたくて飲んでいるようには見えないが」

「鳥を抱くのに関係ないでしょう。
 でも、まあ、、、僕はロバートの望むようにあるべきだからね。
 どんな鳥なら、ロバートは満足なの」

「ひとまずはその深酔いをさませ。
 飲むなとはいわないが
 自棄酒でかんしゃくでも起こされては興ざめだ」

「、、、、、」

「何があった」

その言葉がセナの中で優しく響いた。

だが鳥としてのセナはその優しさを拒絶してしまう。

「何も」

「、、、、、」

「あったとしても、鳥と主の関係には、く、、う、、」

ロバートはセナを組み敷いた。

「ならば、主としての命令なら従うか」

「その方が僕たちには似合ってるよ」

2人は肌を重ねた。


「ん、、、、、」

ベッドに沈むセナの頬に冷たい感触が当たった。

「ただの水だ」

のろのろと上半身を起こし流し込む。

「ここに足を向けない間に何があった」

「、、、、、通りで動けなくなった人がいて家まで送ったんだ。
 弟と2人暮らしで、弟のほうは目が見えない。
 以前いた場所には住めなくなって、キエヌに移り住んだって」

「お前が荒れる理由とは思えんな」

「どうしてかはわからないけど、あの2人に会ってからだよ。
 今まで何とも無かったことが、どうにも苛立ってくるのは」

「なら会うな」

「こうも言ってた。どちらかが死ねば残ったほうも消える。
 つまり後を追う。それが運命だって」

「、、、、、」

「そう、、、、踏み込んじゃいけない何かが
 あの2人にはあるのかもしれない。
 そう思うけど、知りたいとも思ってる」

セナが他人に対して興味を示すなど初めてだった。

この手で独占していることが当たり前。

だが、今のセナは鳥かごの外を望んでいるのだろうか。

「鳥であることを悔やんでいるのか?
 他人に興味を示すなど初めてだな」

「違う、、、、」

「、、、、、」

「鳥だよ。僕はロバートの従順な鳥でいい」

セナは、ただすがった。

「どんなことでもするから」

「セナ、、、」

今までとてセナが反発をしてきたことはない。

ロバートの求めるままに応じてきただけだ。

常に冷めた目で、自分すらも他人のように見ていた。

そんな冷えた心の琴線が揺れている。

そしてセナは、その揺れをどうしていいのかわからない。

いや、恐れているのだろうか。

確かにロバートにとってセナは鳥。

対等に見ることはしないが
心を無視して物のように扱いはしない。

「何を怖がっている」

「怖がる、、、、?」

「鳥かごは鳥を守るためのものでもある。違うか?」

「ロバート、、、、」

「この鳥かごにいる限り、誰にも手は出させん」

ロバートの腕の中。

例え冷たい硝子の鳥かごでも、セナはこの場所で静かに命を繋ぐ。


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