


宵闇草子
「座ってください。今」
「何もなくていいよ。本当に雨宿りだけだから」
「すみません」
蛍雪も向かいの椅子に腰を下ろした。
「名前、何ていうの」
「蛍雪です」
「見えてないんだよね」
「はい」
「他に家族は」
「いません」
光を失った弟と2人だけ。
もしあのまま白竜が戻らなかったら、どうなっていたのだろう。
「もう一人くらい、誰かいたほうがいいんじゃないかな。
人気の無い所で倒れてたら、あなたも困ると思うけど」
「その通りなんですけど、、、、いないんです。誰も」
「、、、、、この町に知り合いがいないってこと?」
「僕たち、キエヌに移り住んだんです。
以前いた町にいられなくなって」
「、、、、、」
見えていないせいもあるのだろうが
蛍雪の言葉は淡々と進んだ。
まるで、他人の物語を伝えるように。
「2人だけだから、1人残ってしまったら生きていけない。
その部分に関しては、逆に諦めもついてますけどね」
あまりにもさらりと出るが、よく考えればとても重い覚悟だ。
「よく言えるね、そんなこと」
「それが運命。僕たちの」
蛍雪の言葉が深く重くなっていく。
運命というのなら、ロバートの鳥として生きている今も
セナにとっては運命なのだろうか。変わること無い。
もっとも、今更変えようとも思わないが。
「目、治らないの?医者には診せたんでしょう」
「、、、、、」
「そう、、、、、」
無言の答えを、治らないとセナはとった。が、蛍雪は続けた。
「生まれつきじゃありません。
昔、知らずに触れた毒草にあたって、高熱が続いた末に
命を繋ぐ代わりとして光を失ったんです」
「、、、、よかったと、取るべきなのかな。
いや、他人が何を言っても無責任なだけか」
「見えなくなったことは、罪に対する報い。そう思ってます」
「何、、、、それ」
「僕たちは目覚めてはいけなかった。
けれど目覚めてしまった。この目は罪に対する罰。
どちらかが失われた時は、残された対も闇に帰ることが運命です」
見えていないはずなのに、蛍雪は正面からセナを見る。
ぞくりと、何かがセナを包んだ。
蛍雪の背で雷鳴が轟く。
まるで、蛍雪を捕らえるかのように。
「大きい、、、、。でも雨音は小さくなったみたいですね」
触れてはいけない何か。
これ以上踏み込んではいけない場所に入ろうとしているような
そんな感覚をセナは覚えていた。
だが同時に、蛍雪が持つ何かに触れてみたいとも思う。
「随分、深刻な事情なんだ」
「と、、、すみません。こちらの話ばかりで」
「雨、、、落ち着いたみたい」
いつの間にか、雨音は玉響に変わっていた。
「それじゃ、これで」
「遠いんですか?」
「大丈夫。傍にいてあげなよ。2人だけなんでしょう」
「はい。本当にありがとうございました」
蛍雪の持つ何かを土産に、セナは鳥かごに戻った。
暫く待って、蛍雪は白竜の部屋に戻った。
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「兄さん、、、、」 「彼は」 「帰ったよ」 耳元で囁いた。 「2人だけだ。さっきは応急処置だから」 「蛍雪、、、、」 荒い呼吸が何よりの証拠だった。 「僕は兄さんを生かすために生きる。それが運命。 「、、、すまない、、、っ」 「ぐ、、うぁ」 うなじに牙が食い込んだ。 「んんっ、、、、つ、、」 トクン、トクンと2つの鼓動は同じ音を刻み始める。 よほど乾いていたのだろう。深い。 「にい、、、さ、、、」 ベッドを掴んでいる蛍雪の腕が震えだす。 それでも耐えた。 「(蛍雪、、、、)」 白竜も、こうしなくては生きていけない己を 生かすため。生きるために抗えない妖しの血脈。 「!!!」 ずしりと深く落ちて、蛍雪は声にならない声を上げた。 白竜が牙を抜くと、そのまま床に倒れる。 「蛍雪、、、、、」 この牙を染めている朱色は蛍雪の血。 白竜は、ベッドを下りて優しく抱きしめた。 「すまない、、、、。 「兄さん、、、。僕たちは罪と共に目覚めたんだよ」 「、、、、罪があるならば私だけだ。 「それこそ兄さんが望んでるわけじゃない。 「蛍雪、、、、、」 「もうやめよう。 「、、、、、そうだな」 蛍雪は、そっと白竜に体を預けた。 |
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