優しい鳥籠


「セナ?いないのか?」

部屋に灯りはなかった。とっさにあの箱を開ける。

短刀と手紙は無くなっていた。本気で復讐をするつもりなのだろうか。

「、、、、させないぞ」

セナを追い、再び町へ出た。


元帥府へ向かう道を歩きながら手当たり次第訊いた。

すると、何人目かで男がこう返した。

「ああ。それなら喧嘩騒ぎの」

「喧嘩ですか?」

「いや、喧嘩っていうか酔った男が女性に絡んでた。
 止めに入ったのがその人だったと思うよ。
 長くて真珠色の髪。地面すれすれまであった」

「その後のことはわかりますか?」

「女性と一緒にいたと思うけど最後までは」

さすがに何処の誰かまでは難しいだろうか。

そう思ったが、男の方から名前は告げられた。

「仕立屋の奥さんだよ。
 アントワネット=シェルダンの名前で看板が出てる」

「シェルダン夫人、、、、(あの時のか。こうなるとは)」

勿論、忘れはしない。

ならばルディにも会っているだろう。

「わかりました。どうも」

だだでさえ不安定なうえに、相手が相手だ。

ロバートは無意識で足を速めていた。

 


「後は見てるわね」

「お願いします」

酒を飲んだセナはそのまま眠ってしまった。

2人で運びアントワネットが傍についた。

リビングに戻ったルディは自分の酒を作り、一息で空ける。,

セナは何を望むのだろう。

鳥籠から逃れること。それとも、ロバートの傍らだろうか。

鳥としてではなく、人として。

呼び鈴が鳴った。

「こんな時間に誰だ」

 



玄関に立ったルディは扉越しに応じた。

「どなたです」

「セナが来ているはずだが。廃屋で一度会ったな」

覚えのある声にルディは扉を開けた。

「また会うとは思いませんでしたね」

「こっちもだ。セナは」

「どうぞ」

ルディはロバートを入れた。


通されたリビングにセナの姿はない。

「こちらに渡すつもりはないということか」

「相当アルコールが入っているようですね。
 1つ訊かせてください。
 セナは鳥籠から逃げ出したんですか?」 

「そうしたいならすればいい。
 だが、今回の深酒の理由は違うだろうな」

「それは」

「借りるぞ」

ソファーに座り、更地から出てきたものと
横領事件の顛末を手短に説明した。

聞いたルディにしても、とうてい思いつくことではない。

「そんなことが、、、、。
 まさか、本気で元帥府に殴りこむつもりなんですか?」

「させたくはないし、するなとは言った。
 だが、最後はセナの心1つだろう。
 本当に鎖でつなぐこともできまい」

知らずとはいえ、自分の言葉は
セナの苛立ちを増してしまったのだろう。

すまなかったと思うと同時に、本当に元帥府に向かって
いたのなら止められてよかったとも思う。

それはロバートも同じだったようで
大きく息をついた。

「逆に助けられたのはセナのほうかもしれないな」

「、、、、、」

あの時、ロバートはセナを鳥だと言いきった。

だが、そうではない何かを持っているのではないか。

セナを止めようとしているのなら。

気に入ったといっても鳥は鳥。

いなくなれば次を探せばいい。

実際、鳥だけを求めた男はそうしていたのだから。

「セナが心配ですか?」

「、、、、、」

「鳥としてではなく」

「鳥は鳥だ」

ロバートは遮った。

「それこそ、私とセナの間の話。
 鳥籠から手を引いたのなら、黙っていてもらおう」

ルディは返せなかった。

「セナはどこにいる」

「奥に。眠っていますから様子を見てきます」

ソファーを立つと同時に奥の扉が開いた。

アントワネットはロバートを見ると軽く一礼する。

「遅い時間に失礼を」

「いえ」

「彼が、今のセナの主です」

「え、、、」

「ロバートです。セナが世話になったようですね」

「そんな、私のほうこそ助けてもらいました」

「動かせそうですか」

起こさなくても、そのつもりなら馬車に乗せればいい。

何よりセナが鳥であるのなら、主の命令は絶対だ。

逃げ出してきたのなら匿うことを厭いはしないが
まだそこまで踏み込めてはいない。

だが今は、眠りに包まれたばかり。

このまま、そっとしておいてあげたかった。

「今夜一晩、私たちに預けていただけませんか」

「アントワネト、、、、、」

「責任を持って様子を見ます」

「御主人を誘拐したのがセナだとわかっているのですか?」

「知っています」

「セナの中では、まだ消化しきれていませんよ。
 今のセナは不安定でもある。それでも?」

「セナさんの持つ短刀が、凶器に変わるかもしれない。
 そう仰りたいのでしょう」

セナがレイスを恨んでいる鳥ならば可能性はある。

揺れたのはルディだった。

「アントワネット、彼が来たことを伝えてみましょう」

だが、アントワネットは頷かなかった。

「不安定だからこそ、ただ深く眠りたい時もあります。
 夢さえも届かない深い眠りは
 持て余す心を優しく包んで休ませてくれる。
 あなたとセナさんの間に深入りはしません。
 でもせめて、今夜はここまま眠らせてあげて下さい」

アントワネットは毅然とロバートを見た。

ひるまない揺るがない強さ。

言葉少なくとも、ロバートを説得するには十分だった。

「、、、わかりました。
 そこまでの覚悟なら任せましょう」

ロバートはルディに向いた。

「いい人を妻にできたな」

皮肉でもなく、ただ素直にでた言葉。

「ええ、私には勿体ない女性です」

「守ってやれ」

振り返ることなく、この家を後にした。

「ありがとう」

「ルディ、あたしなら大丈夫。
 鳥籠が壊れても鳥籠があった事実は消えない。
 鳥として生きた人たち、今も鳥として生きる人がいる」

「、、、、、」

「ルディが向き合うのならあたしも一緒に向き合うだけ。
 だから、迷うことなんてないのよ。それは忘れないで」

「本当に、私には勿体ない女性です。あなたは」

美しく誇り高き女神。

共に生き守るのだと、ルディは静かに腕に包んだ。
















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