優しい鳥籠
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「お帰り」 帰ったロバートをいつもの声が出迎えた。 「いつもの作ろうか」 帰って最初のグラスは決まっている。 ボトルに手を伸ばしたセナを 「後でいい。ひとまず座れ」 「ロバート?」 声の調子は怒りではないが いや、命令か。 どちらにしろセナに拒否権はなく、言葉に従った。 「何をすればいい」 「これに覚えはあるか」 セナの前に短刀を出す。 「これって、、、、」 わずかに考えたセナは息をのんだ。 「何で、、、、何でこれがここにあるの」 「元帥閣下の言っていたセナ=オライジェル。 区画整備を請け負っている現場からこれが出てきたこと。 横領事件が冤罪だったこと。 預かってきた謝罪を伝えた。 「冤罪?そんな、、、、それを知ったって全部遅いよ!」 セナの感情が激しく揺れる。 「あの事件のせいでみんな滅茶苦茶になった。 短刀を掴むその手を掴んだ。 「落ち着け。元帥府を相手にするつもりか」 「相手が何だっていい」 「一般の素人が忍び込める場所じゃない。 「いいさ、、、僕が居なくなったところで誰も」 このまま進ませれば間違いなくセナが犯罪者。 やけになって、自分から破滅を選ぶかもしれない。 今のセナには使いたくなかったが 「忘れたか?今のお前は私の鳥。 「っ、、、、」 セナは小さく唇を噛む。 「実行には移すな。命令だ」 命令と言われば逆らえない。 知らず、本能にそう叩き込まれてきた。 それが、生きる術だと。 ならばどうすればいいのだろう。 おさまりのつかない、この心を。 (僕はあなたの鳥、、、、そうだよ) 鳥として生きるだけ。いつものように。 「なら抱いてよ、ロバート」 「、、、、、」 「考えなくていいように。忘れさせて。溺れさせて!」 叫んだセナは固く口を結び、ロバートの腕を掴んだ。 「セナ、、、、」 慰めの言葉を知らない。 せめて、優しく包むような愛撫で 「せめて、腕の中にいる時は違う夢をみていろ」 ゆっくりと、たゆとう夢の中に沈んだ。 |
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翌朝。
ロバートが出る時間になってもセナはベットの中だった。
送らないことを責めるのではない。ただ1つ、気になるのは。
「セナ」
「、、、、、わかってる。命令には逆らわないよ」
実行には移さない。今は信じるしかなかった。
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ようやく起きたのは昼を少し回った頃。 一斤のパンを口に運び水で流しこむ。 ただ時間が過ぎるのを待ち 一人で黙々と酒を進め店を出た頃には、夜になっていた。 体が軽い。 (わかってる。何もできないって、わかってるけど) 人の間を泳ぐ。 この町の中で溺れたらどうなるのだろう。 不意に、人の間から声がした。 見まわすと、一所に人の輪ができていた。 セナは近づいた。 間から見えるのはひと組の男と女だった。 男は酒が入っているのだろう。 女の方はセナの知った顔だった。 (ルディの奥さんじゃない) そう、アントワネト=シェルダン夫人。 何故こうする気になったのか、セナにもわからない。 だが、考える前にセナはでていた。 |
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「それくらいにしたら」 「何、、、、誰だ」 「ただの通りすがり」 「なら、黙ってるんだな」 動きつつ、アントワネットを背中に入れた。 「あの、、、あなたは」 アントワネットはセナの顔を知らない。 「いいから、行って」 「でも」 「僕のことはいい。帰りを待ってる人、いるんでしょう」 「え、、、、」 「たいそう立派な紳士だな」 男は口の端で笑う。 セナもまた、およそ自分には似合わないだろう言葉に 「何がおかしい」 「初めてだよ。紳士なんていわれたの。 「どうして名前を」 セナはアントワネットを押し戻した。と 「ぐ、、、うっ、、、、」 男が手を出した。 「か、、、はっ、、、」 悲鳴が上がる中、手を出そうとしたアントワネットを 「あんたが手を出しても無駄だよ」 「だけど」 「それより警備隊呼んどいで」 「間に合わなかったら」 「迷ってたら、間に合うものも間に合わない。早く」 「はい。わかりました」 アントワネットは駆けだした。 「いい女だったのに、余計なことを」 「ぐは、が、、あう、、、」 みぞおちに一撃をくらった。 動きの止まったセナに更に振りあげた時 「待ちな!」 離れつつ、それでも気になって動けない群衆から一人が出た。 「いい加減にしな。いい大人がみっともない」 「なんだ、おばさん」 「おばさんで悪かったね。 「やるってのか」 男がすごむも、夫人はひるまない。 逆に男が一歩引いた。 その間に別の手がセナを引き離す。「あんたがまだガキの頃から、ここで店張ってんだ。 呼びかけに、近所の店主たちが一歩づつ出た。 手には、モップやらバケツやらがある。 「そうだよ、出ていきな」 「二度と来るな」 じりじりと男にせまった。 「やるってなら、あたしたち全員が相手だ」 「な、、、なんだよ、お前ら」 その声を、何故かセナは遠くに感じる。(、、、、僕なんかのために?) そこにアントワネットが駆け戻る。 「こっちです。早く」 警備隊まで加わったのでは分が悪い。男は逃げだした。 アントワネットはベンチに座ったセナの隣に腰を下ろした。 |
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