優しい鳥籠 


「助けてくれてありがとうございました。病院へ」

「大、、、丈夫、、、けほっ」

最後の一撃はきいているようで鈍い痛みが残る。

「ただの酔っ払いの喧嘩だから。戻ってもらっていいよ」

「しかし」

困惑する警備隊にセナは続けた。

「どこの誰かなんてわからないし
 当事者がいいって言ってるんだから終わりにして」

「、、、、わかりました」

拒絶する人間相手に粘るのを諦め
警備隊は呆れた様子で立ち去った。

「だったらせめて、家で少し休んでください。
 このままになんて、できません」

(ルディを誘拐したのが僕だってわかったら
 きっと、放っておくよね)

それを知ってなお、同じ言葉をかけるほどの
お人よしでもないだろう。

(幸せか、、、、ルディもレイスも大切な人がいて
 一緒に暮らしてて。大切な人、、、僕は、、、、、)

今頃になって酒が効いてきたのか、思考が回らない。

「ルディは、、、、いい人に会えたんだ」

「え、、、あなた、、、しっかり」

黙ったセナは虚ろな眼差しで手元を見つめるだけだった。

 


「何かあったのかな」

集まっていた人だかりが散っていく。ルディは足を止めて様子を見ていた。

すると、その中の一人がルディを見るなり駆け寄ってきた。

近所で馴染みの夫人だ。

「ルディさん」

「こんばんは。人が集まっていたようですが」

「アントワネットさんが男にからまれて」

ルディはすでに駆けだしていた。

「相変わらずだこと」

愛妻家ぶりを地でいくルディをほほえましく思い、夫人も家路を歩き出した。



「あそこか。、、、、、セナ?」

ベンチに座っているアントワネットが見えた。

隣には長さのある真珠色の髪。

背中を向けてはいるが、そう同じ髪をもつ人間はいないだろう。

ゆっくり近づくと、アントワネットもルディに気づいた。

「ルディ」

「ルディ?」

「やっぱり、セナですね」

(、、、、この人が)

昔の鳥。

あの一件がアントワネットに浮かぶが、それはそれ。

今は別の話だ。

「セナさんが助けてくれたの。間に入って庇ってくれたわ。
 怪我もしてるから、家で休んでもらおうと思って」

「そうでしたか。セナ、ありがとう。
 家に来てください。歩けますか?」

「、、、、、」

「セナ、昔のこともあの時のことも今は別の話です」

ルディは静かに手を添える。

「温かいお茶の一杯でも、飲んでくれませんか」

「頷くまで動くつもりないんでしょう」

「ええ」

「わかったよ」

ここで押し問答をするだけの気力もない。

それに、触れた手のぬくもりは何故か暖かかった。けれど

(ロバート、、、、、)

浮かんだのはロバートだった。

 


家に上がると、ルディはすぐに応急処置を始めた。

「いっ、、、」

消毒液が少ししみる。

その間アントワネットはお茶の準備をし
落ち着いたころを見計らって、セナの前に置いた。

「どうぞ」

「、、、、、」

目の前にいるのは仲のよい夫婦。

酒で神経過敏になっているのか、どうも落ち着かない。

「僕なんかに親切にして、ほんとは放っておきたいんでしょう」

「セナ、、、、」

セナはアントワネットに向く。

「あの時ルディを誘拐したの僕だよ。
 それでも、一緒にいて嫌な気持ちにならないの?」

「あなたは私を助けてくれた。
 ルディが言った通り、あの時の事と今は別の話よ」

答えるアントワネットに迷いはない。

言えるのは今に満足しているからだろう。

「けほっ、う、、、いっつ、、、」

咳込んだとたん、体が軋んだ。

(変わってない、、、、何も、、、僕は、、、、
 ロバート、、、、どうしてロバートのことばかり、、、、)

背中を優しくアントワネットがさすった。

けれど、その優しさが今は苦しくて。

「少し横になったほうが」

「いい」

「戻るつもりですか」

セナが一人で歩いていた理由を、ルディたちは知らない。

鳥籠から逃げ出してきたのかと
そんな考えが浮かぶのも無理はないことだった。

「独りであるくのは、まだきついだろうし
 アルコールも入っているでしょう。
 彼の所から離れるつもりで町を歩いていたんですか?」

「ルディには関係ない」

「セナ、あなたを楽にできるなら」

「今更なんだよ!く、、、」

「、、、外すわね」

アントワネットが離れた。

「鳥籠が壊れて大切な人ができて今が幸せで
 罪悪感を消したいから、昔の鳥に手を貸したいって?
 それが偽善だって、いいかげん気づいたらどうなの。
 そんなの、今でも同じ鳥にとっては一番いらない
 余計なおせっかいだ」

「、、、、、」

そこまでの考えはない。

だが、ルディの周りで今も鳥なのはセナだけ。

レイスもガレリアもオルガも新しい道を手に入れた。

セナには、同じ考え方は通用しないだろうか。

関わらないことがセナとって楽なのだとしても
これが偽善でも、ルディは黙っておくことができなかった。

「そこまでの考えはありません。自己満足かもしれない。
 それでも、黙っていることはしたくないんです」

セナは掴みかかりそうになったが
体がついていかない。

浮いた腰が再びソファーに落ちた。

今は何を言っても興奮させるだけだろう。

「セナ、もう何も言いませんから本当に少し休んでください」

「、、、、お酒頂戴」

「体壊しますよ」

「いいから。寝酒だよ。ひと眠りしてく」

「、、、、わかりました」

できるだけ薄く作りセナの前に置いた。

あおったセナは目を閉じる。

(今更か、、、今更だけれど)

鳥籠が壊れても、消せない影は今もなお鳥を捕らえる。

その影に、ルディは父の姿を見るのだった。


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