

優しい鳥籠
並行して同時に存在する2つの世界。
一方には背に翼を宿す命が存在し、もう一方には翼を持たぬ命が存在する。
それぞれに息づく地で、日々の営みは続いていた。
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泡沫の中心都市、キエヌ。 人と物が集まるこの町は、常に賑わいをみせていた。 「社長、よろしいですか」 「次の予定が入ってる。手短にな」 町の上下水道、ガスの管理会社等を持ち その手腕は高く評価される一方で 「はい。今手がけている区画整理の工事なんですが 部下は箱をテーブルに置いた。 今請け負っている仕事は 通っているライフラインの状況確認をしている段階だ。 更地になっている一角を掘り返していたところ 錆びた鍵の軋む音がした。 「あの場所に住んでいた人間の置き土産か。 「お願いします」 部下を帰し、あらためて箱を見る。 持ってみると軽いものだった。 「これならこじ開けられるか」 鍵はすでにぼろぼろだ。 蓋との隙間に一枚かませれば力任せで開けられるだろう。 ロバートは適当な一枚物を捜し、それを挟んだ。 てこの原理で力を入れると、思ったとおり無理なく開いた。 「これは、、、」 出てきたのは、短刀と一通の封筒。 慎重に取りだし、封筒を見た。 中にも紙が残っており、取りだして広げる。 文章の判別は難しかったが その名前は 「セナ、、、、だと?」 さすがに驚きを隠せなかった。 セナは、かごの鳥。自分が買った男娼だ。 鳥になる前のセナの暮らしに興味はなく これを埋めたのはあのセナだろうか。 そしてあの場所に住んでいたのなら だが、それは続かなくなりセナは体を売った。 「訊いてみるか」 次に向かうのは元帥府。 最後に住んでいた人間の確認くらいはできるだろう。 ロバートは短刀と封筒を戻し、鍵付きの棚におさめた。 |
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予定通りに元帥府に到着し、元帥ユラカイトの部屋に通される。
「ご苦労」
「いえ」
キエヌの最高施政者、ユラカイト。
施政者としてはまだ若いが、引くことのない堂々とした立ち振る舞いは
臣下に十分認められていた。
また町の女性たちの憧れの的でもあった。
「早速だが、進行状況は」
「こちらが工程表と進行状況をつけあわせたものです。
予定通りといってよいかと」
ユカライトは手元でゆっくり目を通す。
「お前の仕事は早く正確だ。相変わらずいい腕だな」
「ありがとうございます。
元帥閣下、実は1つお尋ねしたことがあるのですが」
「ん、何だ」
「あの場所に最後の住んでいた人物を、ご存知ですか?」
「それは」
呟いたユラカイトはそのまま口を閉ざした。
思い出しているというよりは
口にしていいのか迷う。
そんなふうに見てとれた。
「細かい話はいりません。
セナ=オライジェルという名の人物がいたかどうか。
それだけを教えてください」
「ロバート、、、、知っているのか?セナ=オライジェルを」
「閣下の仰るセナと同一人物かは、わかりません。
ですが、同じ名を持つ者が近くにいます」
「そうか、、、、」
瞬間目を閉じたユラカイトは決めた。
「わかった。話そう。もしロバートの知るセナが
あの場所に住んでいたセナ=オライジェルなら、元帥府としての謝罪を伝えてほしい」
「謝罪、ですか?」
「父親は、冤罪で命を落としているんだ」
まだユラカイトの先代が施政者だった頃。元帥府内で横領事件が発覚した。
犯人とされたのが、あの場所に住んでいた役人だった。
妻と息子がいて、息子の名前がセナだったという。
ところが、数年後別件で逮捕された役人を調べるうちに
先の横領事件に関する証拠がでてきたのだ。
巧みに濡れ衣を着せたことがわかった。
しかしその時点でセナの父親は病死しており
残された家族は家を引き払った後。
元帥府もその後の行方は掴めていないという。
「今更だとはわかっている。
それでも、伝えられるのなら伝えたいと思っていたんだよ」
「先の元帥閣下がいらした頃の事案でしたら
あたな様の責でもありますまい」
「いや、今の立場を預かる以上、知らぬ存ぜぬではすまされない。
先代が私に話して下さったのも、それを望んでのことだろうからな」
仕事を介して話してきた中で気真面目な性格もわかっている。
同一人物なら、謝罪を伝えるくらい頼まれてもいいだろう。
セナが受け入れるかは、わからないが。
「わかりました。同一人物なら伝えておきましょう」
「それから賠償金を望むなら用意はすると。
しかし、どうしてあの場所に住んでいた人間が気になったんだ」
「掘り返したら箱が出てきたんです。中には短刀と
セナの名前だけが判別できる手紙が入っていました。
それで少しばかり気になりまして」
「思い出の品か、あるいは元帥府に対する憎しみかもしれないな」
確かにどちらともとれる。
同じセナなら、再びあれを手にした時どちらの感情が蘇るだろうか。
「どちらの想いであれ、失ったものが戻るわけではありません。
誰かが傷つかなければならないのなら
その傷が小さく浅いものであることを願います。
私のほうはここまでですが、閣下のほうからは」
「終わりでいい。面倒をかけるが、今の件だけ頼む」
「お預かりします」
今後の生活を元帥府が保証するのならセナは鳥であることを拒むだろうか。
翼を取り戻し再び自由な空へ。
それを、自分はどう思うのか。ロバートにはわからなかった。