迷子の時計


「お昼か。私も行ってしまわないと」

舞夢が外出した後、休憩中の看板を出して奥に入った。

自分の手元にある物を戻して、もう一つがまだ残っているかを
確かめるだけなら、昼休憩中に戻ってこれるだろう。

時計を確認し、出る支度を始めた時玄関が開いた。

「ルディ、どうしたの」

仕事を抜けてこの時間に来るなど珍しい。緊急だろうか。

「何かあった」

「時計のことです。詰所には行きましたか」

「出ようとしてたところよ。でも、それを確かめに帰ってきたわけじゃないでしょう」

「戻ってきたんですよ」

「え?」

ルディは手を差し出す。そこにはあの時計が。

「ルディ、、、、」

「刻印もあります。確認しました」

「一体どこで」

「セナが拾ってくれました」

「セナさん?」

「市場の近くでセナとぶつかってしまって、そのセナがこれを持っていました。
 セナは、落し物を拾ったと」

「でも、一度は詰所に行ってるのよね?詰所からこれを受け取った人が
 この時計を持っている時に、セナさんとぶつかって落とした。
 それをセナさんが拾った」

「そのセナが私とぶつかった。これを持っている時に。
 憶測だけれど、説明はつきますね」

「見えない糸を引いたようだわ」

「ともあれ、戻ってよかった」

「ええ、でも」

時計は二つある。
同じように、手元に戻ることを待っている人がいるかもしれない。

「もう一つの時計、詰所に戻しておくわね。
 持ち主が探していれば、詰所にも寄るでしょう」

「そうですね。
 私達の手元に戻ったように、持ち主に戻ればいい」

「知らせてくれてありがとう」

「戻る途中に、届けておきましょうか」

「仕事の途中で来てくれたんでしょう。行ってくるわ。
 私も少し、外に出たいし」

「判りました。ひとまずこれで」

「ええ」

ルディを送り出し、アントワネットも詰所に向かった。

 
 


家具工房、ローゼンタ。職人達で活気づくいつもの光景。

「凪」

「はい」

凪を呼んだのは工房の親方だった。

「何でしょう」

「警備隊から連絡が入った。舞夢さんが事故に巻き込まれたと」

「姉さんが?!」

その言葉に、同僚も手を止める。

「病院はここだ。今日は上がれ」

「すみません。お願いします」

凪は急いで病院に向かった。


「気をつけて。ゆっくりでいいから」

「ありがとう」

駆け込んだ病院には、市場の事故のけが人が運ばれていた。

舞夢は入院というほどの怪我ではなく、自宅で安静にということになった。

「はあ、、、、」

「姉さん」

「ごめんね、心配かけて。自分でも嫌になるわ。ほんと」

再び時計を失くしてしまい、更には凪が懸念していた事故まで。

舞夢には自己嫌悪しか浮かばない。

「また誰かが拾って、詰所に届くなんてことないわよね。
 あ、アントワネットさんにも連絡しておかなきゃ。はあ、、、、」

(ここまで悪い偶然が重なれば無理ないよな)

凪もすぐには言葉が出てこなかった。

「凪、悪いけどアントワネットさんに伝えてくれる。
 忙しくさせてしまってすみませんて」

「判った。詰所にも顔出してみるよ。
 それから、買い物あればついでに買ってくる。
 工房のほうは急ぎの物終わってるから、休むこともできるし」

「ありがとう」

そう言いながらも気持ちは落ち込む。凪は舞夢の手を取り包む。

「姉さん、判るけど、俺は早く怪我を治して
 笑ってくれることが一番嬉しい」

「凪、、、、、」

「フィエラや工房の仲間だって心配してる。
 アントワネットさんだって、一日も早く店に戻ればそれが一番さ。
 時計は、、、、」

一度言葉を切るも

「いや、もう一度奇跡を信じてみる。だから、絶対に無理はするな」

「ありがとう」

頷いた舞夢には、少しだけ笑顔が戻っていた。

 




買い物のメモを持った凪は最初にアントワネットの店へ。

「すみません」

「はい。いらっしゃいませ」

「アントワネットさんですよね」

「そうですけど」

「ここで働いてる舞夢の弟で、凪といいます。
 名前は聞いているかもしれませんけど」

「あなたが。ええ、名前は聞いています」

「じつは、姉がついさっき事故にあって」

「え、ついさっきって、、、、じゃあ、お昼に外に出た時に」

「足を痛めて、数日は自宅療養になりました。その連絡に。
 忙しくさせてしまってすみませんと預かってます」

「そんな、とんでもない。あ、入ってください」

「いえ、他に頼まれていることもあるので、今日はこれで」

「そうですか。少しだけ待ってもらえますか。すぐ戻ります」

「え、はい」

「ごめんなさい。少しだけ」

アントワネットが席を外した時、影に入っていたテーブルが目に留まった。

そこにはあの時計が。

「あれ、、、、まさか」

凪は手に取る。どうみても同じもの。

そして入っていた刻印は、最初に舞夢が持ち帰った時計の刻印だった。

「どういうことだ。これを持っていて、詰所に届ける直前に
 また人にぶつかったんだよな。その後に事故、、、、
 けど、ぶつかった相手がアントワネットさんか旦那さんなら
 姉さんだって判るはずだし」

そもそも、この時計はアントワネットの物なのだろうか。

それとも、迷子の途中でたまたまここにあるだけだろうか。

「訊いたほうが早いか」

時計を戻し、アントワネットを待つ。

「お待たせしました。これ、簡単ですけどお見舞いに」

持ってきたのは家で焼き上げたケーキ。

「ありがとうございます。あの、一つ訊きたいことが」

「何でしょう」

「あの時計、アントワネットさんの物ですか」

「時計?そうですけど(あ、もしかして)」

アントワネットも思い当たる。

「もしかして、同じ物をお持ちなの?」

「はい。イニシャルが入った同じ型で
 姉さんが市場で人にぶつかって落としたって」

「ついさっき、詰所に届けたばかりだわ」

(ついさっき?姉さんが落としたのは昨日、いや一昨日だよな。
 姉さんとぶつかったのって、、、、、)

どうも時系列が噛み合わない。

「あの、姉さんとぶつかったのって」

「詰所に行きましょう。
 さすがに二度目の取り違えはないでしょうけど、まずは手元に戻さないと」

「取り違え?」

「歩きながら説明します」

「あ、はい」

再び詰所に向かった。
 


 



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