風が伝えし奏で


部屋に入った闇戯はまず一礼をする。

そして、変わらない落ち着き払った様子で
ルトヴァーユを見ていた。

「どうぞ」

促されソファーに座った。

「おわかりでしょう。私がここに来た理由は」

「わかっていると思います。先に紹介しておきましょう。
 隣は黒の統括シェスタです」

「闇戯と申します」

「初めまして。黒を預かるシェスタです」

「イーリスはあなたのところに行ったんですね」

「こちらに足を向けたジャステアが連れ帰ってきました。
 本人いわく、離れを出ることにしたから置いてくれないかと。
 ですが、詳しいいきさつは話そうとしません」

「置き手紙一つで出て行ってしまったんです。理由は、、、、」

ヴィクトリアの名前を出すことはためらわれた。

ヴィクトリアを悪く言うつもりはないが
闇戯がどう取るかわからない。

言葉の止まったルトヴァーユに代わる形でシェスタが続けた。

「ルトヴァーユ様とイーリスを心配するあまり
 きつくあたってしまった方がいるのだと思います。
 まだ推測の域をでませんが」

「どこの誰だか見当はついているのですか?」

「ええ。ルトヴァーユ様と向かうところです」

「ならば、ご一緒させていただきましょう」

「私はかまいませんが、、、、ルトヴァーユ様」

「、、、、、、」

「イーリスをこちらで預かる以上、無関係とは思えませんが」

ルトヴァーユが気になっているのは精神面の強さだった。

闇戯の言葉は間違っていない。正論を正面からぶつけてくる。

だが、皆が皆それを受け止められるとは限らないのだ。

それでも、イーリスの件で闇戯を無視はできなかった。

「わかりました。かまいません」

3人はヴィクトリアの元へ向かった。


昔の記憶をたどって進んでいるとシェスタが急停止した。

「ルトヴァーユ様」

視線の先にヴィクトリアがいた。

「ヴィクトリア、、、、」

この状況でなければ懐かしい昔話のひとつでもしたい。

だが、ごまかしや遠慮はかえってお互いを傷つけるだろう。

「行きましょう」

ルトヴァーユを先頭に前へ下りた。


ヴィクトリアは驚きの表情をみせたものの、すぐに膝をついた。

「統括様がお揃いで、私に何か」

「そんなに構えないでください」

シェスタは優しく手を添えた。

「ひとつ聞きたいことがあるんです。
 イーリスのことで話をした後、当の本人に会いましたか?」

「そのことは、、、、、もう」

つい言葉が強くなってしまったことを悪く思う一方で
もどかしいイーリスの態度に苛立ちもした。

そんな小さなトゲを、ヴィクトリアは持て余す。

「後の裁量はお任せします」

「そのイーリス当人がいなくなってしまったんです」

「え、、、、」

「ルトヴァーユ様に何も告げず、手紙だけ残して」

ヴィクトリアの視線がルトヴァーユに向いた。

「君を責めるつもりで来たんじゃない。
 ただ、話をしたのなら何を言ったのか教えてほしいんだ」

白銀に立ってからまともに話したことなどなかった。

けれど、ルトヴァーユ向かい合って立つ雰囲気は
昔と何も変わらない。

変わらないからヴィクトリアは苦しかった。

白銀の命として問い詰められた方がまだ楽だ。諦められる。

だからこそ、ヴィクトリアは対白銀という立場を貫いた。

「離れを出たほうがお互いのためだと、はっきり言いました」

「イーリスは何と」

「反論も納得も、その場では返していません。
 ルトヴァーユ様、連れ戻すおつもりですか」

「それは、、、、」

「自分から出て行ったイーリスを追いかければ
 何を言われるかおわかりになるでしょう。
 口さがない者たちは憶測だけの噂話ばかり。
 いい反感材料を与えるだけです」

「ヴィクトリア、、、、、」

「どうか、これ以上悪く言われるような」

「そこまで強がらなくてもいいのでは」

割って入った声は闇戯だった。

ヴィクトリアは初めて闇戯に目を向ける。

「あなたは」

「白の双翼、闇戯と」

「何が言いたいのかしら」

「白銀としての立場だけを心配している言い方だけれど
 無理にそうしようとしていませんか?
 立場どうこうではなくルトヴァーユ様ご自身が心配なのなら
 ただイーリスに出て行けというのではなく
 互いのために何ができるか、もう少し考えてもいいのでは」

「白銀としてのルトヴァーユ様に意味はないといたいの?」

「全てではないということです。
 確かに白銀は従わせる立場。
 けれど、仕事を終えて家に戻ればくつろいで話もしたい。
 そんな時に待っている誰かがいるのは悪いことですか?」

こんどはヴィクトリアが黙ってしまう。

「それに皆揃って反対しているわけでもない。
 あなただって、イーリスが離れにいることそのものではなく
 ルトヴァーユ様への影響が気になっているのでしょう」

「だったら、、、、、どうしろというの」

「ヴィクトリアさん、落ち着いて」

「白銀の翼が白にもどることはない。
 もう、、、、あの頃に戻れはしないのに!」

叫んでしまったヴィクトリアの頬に雫が伝う。

ここにいるのは限界だった。

「とにかく、これ以上は何も申しません」

ヴィクトリアはシェスタを振り切り飛び立った。











「彼女は彼女なりに、あなたを守ろうとしたのでしょうね」

ヴィクトリアの残像を見つめて闇戯は言った。

「白銀であることは変えられない。
 だからせめて、白銀としてのあなたを守ろうとした。
 憎まれ役をかってでも」

「、、、、シェスタ
 ヴィクトリアの傍にいてあげてもらえませんか」

「ルトヴァー様」

「私の言葉は届かない。
 でもあなたなら受け入れてくれる気がするんです」

「しかし、このままでは」

「わかっていますよ。
 イーリスを含めて話す必要はあります。
 ただ私も、顔を揃えるまで少し時間がほしい」

ふと、ルトヴァーユから苦笑いがもれる。

「情けないことだけれど」

「、、、いいえ。
 私もあまり急がないほうが良いと思います。
 では、先に失礼を」

ヴィクトリアを追ってシエスタも飛び立った。

「イーリスは、当面私のほうでいいですね」

「お願いします。場所はどこになるんですか」

「キエヌ以外の街へ繋がる門をご存じですか?」

「聞いたことはあるけれど、渡ったことはありません」

「私たちの住む場所に一番近い門まで御案内しましょう」

妖しの里へ繋がる門を目指して2人も浮島を後にした。







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