



風が伝えし奏で
「黒の統括、シェスタ様が御出でになりました」
「通して下さい」
置手紙を残し、イーリスが姿を消した。思いを巡らせ、ルトヴァーユはシェスタを呼んだ。
「失礼いたします」
「呼びつけてすみませんね」
「お気になさらずに。どうなさいました」
「イーリスの話をした後、当の本人に会いましたか」
「、、、、いいえ」
「そう、、、。イーリス、どうして」
ルトヴァーユは天を仰いだ。思いは揺れる。
そんなルトヴァーユに、シェスタは穏やかな声で問うた。
「イーリスに関して、何かありましたか。
私をお呼びになったのは、思うところがおありなのでしょう」
「シェスタ、、、、」
「お話しいただけるのであれば、お伺いいたします」
「ありがとう」
全てを包み込み受け入れる。
シェスタの持つ雰囲気は、そんな大きな心を表すようだった。
「あの後離れに戻ったら、イーリスからの手紙があったんです。
これだけを残して、イーリスは姿を消しました」
「何も言わずに?」
「ええ」
「私がイーリスと何かしらの話をしたのかもしれない。
そうお考えになったのですね」
「けれど、冷静になってみれば不躾でしたね。すみません」
「気になさらないでください。
それにしても、いく先の充てはあるのでしょうか」
「ひとつだけ、考えられる場所があるんです」
行く先があるとすれば、湖の向こう側。闇戯とジャステアのいる場所だろう。
正確なところまではわからないが
やろうと思えば風の精霊に探させることはできる。
だか、そこまでは踏み切れずにいた。
「呼び戻すおつもりですか」
「、、、、、わからないんです。どうすればいいのか」
「、、、、、、」
「あの文面から察するに
戻ってほしいといっても頷いてはくれないでしょう。
白銀の命令など使いたくもないし
無理に連れ戻してもイーリスは」
「沈んだ表情で日々を過ごすでしょうね」
「ただ、きっかけは知りたい」
「きっかけといいますと」
「出ていくことを決心させるだけの何かがあった。
でなければ、置手紙ひとつだけで出ていくなど」
確かに口さがないうわさ話は今に始まったことではない。
それを、イーリスが今まで何一つ聞かなかったのも不自然だ。
きっかけ。それを考えたシェスタはひとつ思い当った。
「まさか、彼女が」
「心当たりがあるんですか?」
「現状のままではルトヴァーユ様が悪く言われてしまう。
それをとても心配している方から相談を受けました。
もしも彼女がイーリスとばったり会って
そのような話になったとしたら、あるいは」
「相手の名前は」
「ヴィクトリアさんと」
「ヴィクトリア、、、、、」
その名前はルトヴァーユにとって懐かしいものだった。
話の尽きなかった大切な友人。
気の強いところもあったが、歯切れのいい物言いは清々しくもあった。
「ご存知ですか」
「懐かしい友人です。ただ、白銀として立ってからは
会うこともなくなってしまったけれど」
(彼女は、、、、、おそらく違う)
ヴィクトリアがルトヴァーユに対してもっている感情。
それは友人以上のものだろう。
そしてヴィクトリアが己の気持ちに気がついたのは
ルトヴァーユが白銀に立った時なのかもしれない。
告げるには遅すぎた。
ならば、イーリスに対してもきつくなってもおかしくない。
「ヴィクトリアさんと会ってみますか」
「話してみます。シェスタ、同席をお願いできませんか」
「よろしいのですか?」
「話の成り行きで何を言ってしまうか
少しばかり不安もあるんですよ。
2人に納得してもらうのは難しいだろうけど
できるならヴィクトリアとも友人でいたい」
「わかりました。お力になれるかはわかりませんが」
「ありがとう」
「ヴィクトリアさんの住まいは」
「以前とかわっていなければ、わかります」
「ルトヴァーユ様」
先に出ようとしたルトヴァーユを、シェスタは呼び止めた。
「差し出がましいとは思いますが、ひとつだけ」
「どうぞ」
「お2人ともに友人でいたいとのお気持ちはわかります。
ですが、どちらかを選ぶ覚悟だけはお忘れなきよう」
「シェスタ、、、、、」
「2人を失うまいとして2人共に失う。
悲しいことではありますが、可能性はあります」
「、、、、選ぶ、か」
イーリスとヴィクトリア。
両方から助けを求められたら
どちらかを選ばなければならない。
したくはないが、それはイーリスを留置いた責任でもある。
「そのつもりでいます」
「参りましょう」
今度こそ部屋を出ようとしたところでノックの音がした。
「どうぞ」
「失礼いたします。お客人がおみえですが」
「名前は」
「白の双翼で、闇戯と」
「まさか、、、、、」
このタイミングで闇戯が現れたことに驚くが
すぐに確信に変わった。
イーリスは闇戯の元にいるのだと。
「通して下さい」
「はい」
「どなたですか」
「おそらく、イーリスは彼の所にいる。だから、ここに来た。一人で」
「ルトヴァーユ様、、、、」
「あなたも会っておいてください。紹介は私から」
「わかりました」
闇戯はこの一件をどう受け止めているのだろう。ルトヴァーユは己の鼓動が大きくなるのを感じた。