



風が伝えし奏で
「本当に静かな所ですね。風の音しか聞こえない」
「イーリス殿」
湖の向こう側。妖しの里。
聞こえてくるのは風が木々を鳴らす音と
ジャステア、己の声だけだった。
「急に無理を言ってすみませんでした」
「いえ、私たちはかまいませんが
本当に何も伝えずに出てきたままでいいのですか」
「、、、、、、」
「白銀の統括様を心配されてのことなら
やはりお互い納得してからのほうが」
「いいんですよ、これで」
「、、、、、、」
「私が近くにいたのではルトヴァーユ様のためにならない。
それが事実である以上離れるべきなのだし
離れるのなら、、、、、遠いほうがいい」
ここまでは追いかけてこないだろうし、してほしくない。
湖を渡ってまでとなれば、白銀を退くくらいではすまないだろう。
絶対の権力は白銀の責務と引き換えとされるもの。
白銀を投げ出してしまったらその時は、、、、。
(私のせいで傷つけることだけはしなくない。絶対に)
イーリスは何度も同じ言葉を胸に刻む。
だがその面ざしは苦しそうで悲しそうで。
見ているジャステアはいたたまれなくなるのだ。
「私は何の御力にもなれませんが」
「ここに置いてもらえるだけで十分です。
だからほら、そんな顔しないでください」
イーリスは自分よりも沈んでしまった面持ちの
ジャステアに微笑んだ。
「ありがとう」
「いえ。足りないものがあれば仰ってください」
今は静かに見守るほうがイーリスのためだろう。
それに動くのなら闇戯の命令があってから。
そう考えジャステアも穏やかに返した。
そこに羽音が聞こえた。
「御戻りですね」
「闇戯、、、、、ルトヴァーユ様と会ったんだろうな」
どこへ行くとは言わずに出たが
向こう側でルトヴァーユと会ったのは間違いないだろう。
その上でどう話を投げてくるつもりなのか。
常に闇戯は正論をぶつけてくる。
だが、イーリスにも譲れないものはある。
そんな心づもりで、戻った闇戯を迎えた。
「お帰りなさい」
「お帰りなさいませ」
「ジャステア、先に入っていて」
「はい。お茶をご用意しておきます」
ジャステアを下がらせた闇戯は、いつものように前置き無で切り出した。
「白銀に会ってきましたよ」
「そうだとは思いました」
「それからヴィクトリアとも」
「え、彼女にも?」
ヴィクトリアの名前にはイーリスも驚いた。
「どうして彼女のことが」
「少しばかり入り組んでいますけど
彼女が黒の統括に相談を持ち込んだようです」
「そこまで話がいっていたなんて、、、、」
自分とルトヴァーユだけでなく統括まで巻き込んでいたのかと
イーリスは改めて思った。
「私がルトヴァーユ様に甘えていたばかりに」
「黒の統括と白銀が話していたところに私が入ったので
彼女の話も聞きました。
どうやら、白銀に立つ前からの友人のようですね」
「、、、、、、」
「彼女も彼女なりに彼を守ろうとした。
白銀であることを変えられない以上
必然と白銀としての彼を守ることになってしまう」
そしてイーリスがいる場所を羨ましくも思う。
だからイーリスに想いをぶつけてしまった。
「すぐに追いかけてはこないでしょうが
このままにはしないと思いますよ。
黒の統括が出てきたなら、白の統括にも話はいくでしょう」
「捨て置いてくれればいい、、、、、このまま」
「まあ、とりあえずは向こうの出方を待ちましょう」
「闇戯、、、、、」
「一人の都合で決着がつく話でもない。
急いで結論を出せば、かえってこじれる気がするのでね」
「でも、私が戻れば同じことです」
「互いに気遣って皆が傷つく。
そんな最悪の結果にはしたくないんです。
あなたの友人としても」
「、、、、、」
「ゆっくり構えましょう」
「闇戯、、、、、」
想いを乗せ伝えるように
風がイーリスたちの間を抜けていった。
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夜も更け、今度は闇戯とジャステアの2人になった。 「白銀の統括様は、本当にここまでくるおつもりなのでしょうか」 「気持の上では来たいでしょね。 「ある程度距離を取って、いても不自然ではないどこか。 「随分熱心ですね」 「、、、、、、」 ジャステアは闇戯に寄り添った。 「イーリス殿はこのまま離れていればいいと仰います。 「無理をしているだろうことはわかりますよ」 「私はこうして、誰に何を言われることなく闇戯様と共に在る。 「イーリスと白銀の間はその通りだとしてもヴィクトリアがいる。 「何かできることがあれば」 「考えてみますよ。当事者よりも第三者のほうが 蜜色の瞳がジャステアを捕らえる。 ジャステアは吸い込まれるように堕ちていった。 「闇戯様、、、、」 闇戯は頬に手を添え、片腕でしっかりと包んだ。 「行き着く先がどこであろうと、私はあなた様だけのものです」 「あなたに、消せない呪縛を与えていたとしても?」 「闇戯様に囚われたなら、それこそ望むところ。 「ジャステア、、、、、」 人知れず、ひっそりと寄り添う魂。 夜の闇に揺らぐ灯りが静かにとけていった。 |
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