旋律の裏側


3回目のコンサートの壇上に立ち見まわした群衆の中に、フィータとオルガの姿はなかった。

(もう来ないかな)

あれから口を閉ざしたのなら重ねての追及はすまい。

ひとまず今は演奏に集中することだ。

アルドはバイオリンを構えた。


拍手喝采の中退場したアルドはそのままアリエルの部屋へ。

「お疲れ様でした。どうぞ」

促されソファーに座る。

先に切り出したのはアリエルだった。

「市場でフィータに会ったそうですね」

「あ、はい」

待つように言われたにもかかわらず先走りしたのは自分だ。

それは責められて当然だろう。

「つい、先走ってしまって」

「お気持ちはわからないではありません。
 フィータのことを上手く説明できればよかったのですが
 それも難しいところがありましてね」

「待つと言ったものを待たなかったのですから
 非は私でしょう。言いわけをするもりはありません。
 本当に、すみませんでした」

頭を下げるアルドに対し、アリエルもこれ以上良い悪いはない。
それに、本題はこれからだ。 

「ともあれフィータも落ち着きました。
 それに、本題はこれからです」

「それは」

「あの曲を聴いた時のことを、フィータが話してくれました」

アルドは1つ息をのんだ。

「どうだったんですか」

「憶測でしかありませんが、父が盗作したのだと思います」

アリエルはフィータから聞いた状況を伝えた。

「父にも後悔はあったのでしょう。
 ひいき目かもしれませんが、私は父の言葉をそう解釈したい」

「、、、、、、」

「父の作品として世に出ているのなら
 訂正していただいてかまいません。
 扱いはお任せするつもりですし
 私の方でできることがあるのなら、お引き受けします」

「父は作曲家ではなく弾き手です。
 また、あなた方の父親も
 作曲家として身を立てたわけではない。
 この曲は師から出された課題の一つで
 作品として世に発表されたものではないでしょう」

それ以上でも以下でもないのなら
父の形見として自分が引き継いでいけばいい。

アルドはそんなふうに思えていた。

「そう言って頂けるお気持ちには感謝します。
 父の遺作として、これからも大切にしていきます」

「そうですか」

これで一区切りついた。

残るはフィータの心にある傷跡。

「フィータさんに、もう一度聴いてもらうのは無理でしょうか」

「それは」

「この曲に嫌な思い出しか残っていないのなら
 それは少し寂しい気がするんです。
 せっかく綺麗だと感じてくれたのに。
 耳にするだけで脅えるほどならば
 無理にとはいえませんが、、、、どうですか」

確かに嫌な記憶のまま残しておきたくない。

フィータの中での図式は、綺麗だと言ったら怒られた。

ならば、綺麗だと言って怒られなければいい。

瞬間その時が過ったとしても
自分とオルガが傍にいればパニックにならずにすむだろう。

「わかりました。
 次回のコンサートの後、ここで待たせておきます。
 フィータには話しておきましょう」

「ありがとうございます。お願いします」

残すところはあと一回。

その一回が自分にとって、またフィータにとって
いい形で終わるよう精一杯の演奏をと。

アルドは心に決めた。











「ただいま」

「お帰り」

「お疲れさん」

アリエルの帰宅は2人が夕飯を終えて一息ついた頃。

部屋に鞄を置きリビングの出ると
香りのいいお茶が入っていた。

「飯は?取り分けてあるけど」

「後でもらうよ。その前に話があるんだ」

今日は3回目のコンサート。

アルドとの話で何かしら伝えることができたのだろう。

「アルドさんと話したのか」

「ああ。それで、これはアルドさんから
 フィータへのお願いだ。預かってきた」

「僕に?」

「あの曲をもう一回聴いてほしい。そう言ってる」

「、、、、、、」

フレデリックを抱くフィータの手に力が入る。

「アリエル、どっからそういう話になったんだ。
 省略しすぎだろう」

「あの曲はアルドさんとの父親が作ったもの。
 ただ、あくまでの課題に対しての提出用で
 作品として世に出してはいないだろうから
 著作権がらみで争うことはしない。
 このまま父親の遺作として大切にすると、そう言ってくれた」

「フィータに聴いてほしいっていうのは」

「あの曲を綺麗だと言ってくれたのに
 嫌な思い出として残っているのは、少し寂しいと。
 今のままにしておきたくないのは私も同じだ」

「けどな、、、、荒療治のような気もするぞ」

市場でアルドと会った時のフィータを思うと
フィータには辛い気がする。

アルドやアリエルの考えもわからなくはないが。

「フィータ、あの曲聴くの怖いか?」

「アリエル、、、、、」

「私とオルガ、フレデリックも一緒だ」

「フレデリックも一緒でいいの?」

「ただし、袋か何かに入れていいと言うまでは出さないこと。
 これが守れるなら連れてきていいよ」

「みんな一緒、、、、フレデリックも」

フレデリックを見つめるフィータ。

アリエルとオルガは黙ってフィータの答えを待った。

「わかった、、、行く」

「ありがとう」

オルガには危惧が残るが
フィータが行く気になったのなら強固に反対することもないだろう。

自分の役目は傍にいること。

「次のコンサートの時か」

「ああ。ロビーじゃなくて別の部屋で。
 他に人がいないほうがいいだろう」

「最後がいい形で終わるよう願うよ。
 とりあえず飯終わらせてきたらどうだ。フィータといるから」

「頼む」

アリエルが離れると、フィータはオルガにもたれた。

「みんな一緒」

「一緒にいるよ。怖くない」

「うん」

(フィータのためといえば、そうだけどな)

何をどうすることがフィータのためなのか、模索は続いた。











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