旋律の裏側


「フィータ、大丈夫だよ。怖くない」

「オルガ、、、、」

オルガは何度も繰り返す。

「怖くない。大丈夫」

それは魔法の言葉。

暫くするとフィータも落ち着いてきた。

「落ち着いたか」

「うん、、、、、」

「買い物は後にして、一度帰ろう」

「でも」

「夕飯は家にあるもので何とかするよ。部屋にある花も
 1日、2日で駄目になるほど弱ってないから」

フィータはあたりを見回す。

「アルドさんは」

「先に帰った」

「あの曲、、、、」

フィータがいつどんな状況で聴いたのか。

それを整理するにしても、アルエルを待った方がいい。

とにかく、今は家に戻さなければ。

「フィータ、家に戻ろう。
 アリエルが帰るのを待って、それから話そう。
 みんないた方が、フィータも安心だろう」

「わかった、、、、帰る」

呼び起された記憶の断片。

それを、恐る恐る抱きかかえながら来た道を戻った。


家に戻ったフィータはフレデリックを抱え言葉少なだった。

アリエルの帰宅が特別遅いとは聞いてない。

ならば、先に話をさせたほうがいいだろう。

夕食に使えそうなものを見つくろっておき、フィータと一緒にアリエルを待った。


そして、いつもの時間を少し回った頃に玄関が開く音がした。

「帰ったか」

「ただいま」

「お疲れさん。帰ってすぐで悪いけど、いいか」

「オルガ?」

ふと過ったまさかの可能性。

フィータを見れば、フレデリックをしっかりと抱き
下りた視線は空の一点を見つめている。

鞄を脇に置き、そのまま座った。

「何があった」

「市場でアルドさんと会った」

まさかは現実になった。

「楽譜の話を聞いてないかって、そう言ってきたんだ。
 フィータはあの曲を知ってる。
 何かを思い出したんだろうけど、急に脅えだした。
 結局話にならなかったから、そのまま連れ帰ったよ」

「こっちから話すまで待ってくれって言ったのに」

「彼は彼なりで必死なんだろう。
 盗作した相手が
 自分の父親を追い詰めたんだろうからな。
 何にしろ、起きたことはしかたない。
 フィータがあの曲を、何時何処で聴いたのか。
 それを確かめるのはアリエルもいる時のほうが
 いいだろうと思って、待ってたんだ」

「そうか。お前がいてくれて助かったよ。フィータ」

「、、、、うん」

「怖がらなくていいから、ゆっくりと思いだして。
 2回目のコンサートで、アルドさんが最初に弾いた曲を
 聴いたことがあるんだな」

「うん」

「何処で聴いたんだ」

フィータはゆっくりと記憶を辿る。

「ここ、、、、家の中」

「誰が弾いてた」

「、、、、お、、、父さん」

部屋から聞こえてきた音。

足を止めたフィータは暫くそのままだった。

音が消え、フィータは部屋に入った。

きれいだねと、素直に伝えた。だが父は。

「きれいな音が聴こえた。
 だから、きれいだねって言ったんだ。そしたら、怒って」

父は怒っていた。そして怒鳴った。

綺麗じゃないと。こんな音綺麗なはずがないと。

「きれいじゃない、こんな音きれないはずないって。
 でも、きれいだった。だから、どうしてって。
 だけど、きれいじゃない。二度と言うなって、、、、」

「わかった。もういいよ」

「ふえ、、、、」

フレデリックをぎゅっと抱いたフィータを
オルガは優しく抱きよせる。

「盗作だろうな」

「アリエル」

「確かめようは無い。
 だけど綺麗だって言われてすぐ否定したのは
 きっと後悔なんだろう」

「あの曲、アリエルたちの親父さんの曲として
 発表されてるのかな」

「どうだろう」

「未発表なら
 アルドさんの親父さんの曲として発表できないか」

「できたとしても、それを決めるのは私じゃない。彼だ」

「、、、、」

「次の時にこの話を伝えて、その先は任せようと思う。
 勿論、彼の望みに手を貸せるならそのつもりだよ。
 けど、本当にそんなことしてたなんて」

「アリエル、、、、」

アリエルにとっても、大きな衝撃だろう。

父親であり、また恩人でもある人のもう一つの顔。

「誰だって魔が差す時はあるさ。
 その一瞬が一生の後悔を生むこともある。
 苦しかったと思うよ。
 アリエルの親父さんも、アルドさんの親父さんも。
 息子の代になって会うとは思わなかっただろうけどな」

「ほんとだ」

この巡り合わせも、導きによるものなのか。

アリエルは見えない糸を思う。

「アリエル、、、、」

不安そうに瞳が泳ぐ。

「僕、、、、いけないことしたの?だから」

「そうじゃない」

優しく、だが強くアリエルは否定した。

「綺麗だと思った。その心は大切にしなさい」

「アリエル」

「お前が悪かったんじゃない。本当だ」

言葉にならない想いを、人は様々なものに託す。

旋律に、あるいは触れるぬくもりに。

それを心で受け取り、フィータは小さく頷いた。















「ごめんさい、か。何に対してだ」

少し落とした灯りの中で
アルドはフィータを思い返す。

フィータの中にある記憶。

本当にフィータの父親が盗作をしたのなら。

それを知られたしまったから口止めをした。

「だからって、、、あんな」

真相を知りたい気持ちは勿論ある。

けれど、追及は
フィータをより深く傷つけてしまうかもしれない。

父は最後まで許さなかった。

だが、何を望んでいたのだろう。

盗作した相手を世間に公表する事。

それとも、ただ許せない気持ちだけだったのか。

「父さん、、、、」

旋律は、何も語らず佇むだけだった。


   BACK   NEXT