親子


部屋に戻り祈るような気持ちで封を切る。


他家から戻る途中で、1人で歩いているカーネリアを見つけました。家まで送ろうとしたけど、愁馬は頷かなかった。

一晩クロシェで預かって話を聞いてみます。

愁馬の立場が微妙なことも、それが難しい問題なのも判っているつもり。僕に出来ることがあれば手伝うから、声をかけてね。

カーネリア・クロシェ



「そうか、、、、」

「カーネリア様はどのように」

「家に戻ること、愁馬は頷かなかった。今夜はクロシェで預かると」

やはりという思いと、自分が口にした言葉への後悔が混ざる。

「取り返しのつかないことばかりだ。絡瑛の時と同じように」

「カーネリア様にお任せして、今夜はお休みください」

「、、、、、」

「明日になれば、愁馬様も今より落ち着かれるかと思います。
 愁馬様のお気持ちは、愁様ご自身からお聞きにならないと。
 それに、あの会話の一端だけを聞かれたのなら
 瑞樹様のお気持ちも全ては伝わっていないはずです」

本当に愁馬が出ていくことを望んだのだとしても
このままにはしたくない。

だから慰めの言葉は出てこなかった。

「ベット、お作り致します」

「頼む、、、、」

「はい」

ファルアはベットメイクを始めた。背中でキャビネットが開く音を聞く。

アルコールに手が出たのだとしても、今は止められなかった。

1人になりグラスを揺らしながら、瑞樹はロケットを手に乗せる。

「愁馬の気持ちか、、、、」

目の前で愁馬からこの家を出たいと言われたら
自分はどんな言葉を返すのだだろう。

「愁馬、、、、、、」

呟きは夜に吸い込まれるように消えた。

 





そしてクロシェ邸。

「落ち着いた?」

「、、、、うん。ありがとう」

用意された飲み物でようやく一息ついた。

並んで座るカーネリアは、愁馬が口を開くのを待つ。

「カーネリアさん、僕がいると瑞樹さんは困るのかな」

「瑞樹さんが直接そう言ったとは思えないけど
 そう思うような何かがあったんだね」

「瑞樹さんとファルアさんが話してるのが聞こえたんだ。
 僕を引き取ったことは、間違いだったのかもしれないって。
 僕は、いないほうがいいのかな」

その前後に会話はあったのだろうが
愁馬に聞こえたのは一言だけだったのだろう。

それに、瑞樹が愁馬の将来を案じ
愁馬のためになる道を模索していることは知っている。

名門といわれる家の嫡男。

他に男兄弟がいない立場は、自分も良く分かるから。

「瑞樹さんや叔父上が愁馬を愛していても
 今の状態が中途半端であることは事実だよ。
 でも、居ないほうがいいなんて思ってない.。
 間違っていたのかもしれないって思ったのも
 愁馬の将来を考えての疑問じゃないかな。
 愁馬の為に、本当に良かったのかなって」

「僕が彩華月愁馬になったら、瑞樹さんやおじいさまと一緒にいられて
 瑞樹さんが困ることもないのかな」

「彩華月愁馬、その名前を手に入れるってことは
 瑞樹さんの養子になるってことだ。どういうことだか判る?」

「瑞樹さんがお父さん、、、、、」

「それからもう1人、愁馬がお母さんって呼べる人が必要になる。
 その人は誰でもいい訳じゃないんだ。
 愁馬のことを、瑞樹さんと同じように愛してくれる。
 彩華月で働く人たちのことを、ちゃんと考えられる。
 瑞樹さんや叔父上のやっている仕事を、理解できる人」

「、、、、難しいね」

「難しいから、時々弱気にもなる。
 でもそれは、瑞樹さんが愁馬のことを大切に思ってる証拠だよ。
 愁馬の将来を、真剣にかんがえてるだから」

「、、、、瑞樹さん、、、、、」

「愁馬、よく考えてみて。
 あの家を出るなら、預けられる人を捜すか施設に入ることになる。
 本当に、それでいいの?」

「、、、、、」

瑞樹と離れたいのではない。瑞樹を困らせたくないだけ。

傍にいていいのなら一緒にいたい。愁馬は首を横に振った。

「明日送るよ。その時には、黙って出てきたことちゃんと謝って
 一緒にいたいって言えるね」

「、、、、、うん」

愁馬はカーネリアに体を寄せた。

「カーネリアさんがお兄さんだったらいいな」

「僕も、愁馬が弟だったら可愛いと思う。でも」

「でも?」

「もしも、愁馬が弟で瑞樹さんの養子になったら
 僕にとっても、ある意味瑞樹さんは義理の父親にもなる訳だけど」

「あ、、、、ふふっ」

想像したら、小さく笑ってしまった。

「じゃあ、2人ともお兄さん」

「そうだね。ぼくもその方がいい」

お互いが背負っている物を、2人で背負うことが出来たなら。

カーネリアには、ふとそんな思いがよぎる。けれど叶うはずもない。

ならばせめて、同じ立場にある者として、想いを知り
何かの時には手を貸すこと。愁馬のことも。

「もしも、瑞樹さんや叔父上に話しにくいことがあったら
 いつでもおいで」

「うん」

うつむいていた瞳が前を向く。

その眼差しを、カーネリアは優しく包んだ。




















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