親子
翌朝。
「朝か、、、、」
眠ったようなそうでないような、中途半端な目覚めだった。窓を開け、外の空気を入れる。
愁馬がどちらを選ぶにしろ、愁馬の望みを最もいい形で叶えてやりたい。瑞樹はただそれだけだった。
「母さん、、、、絡瑛、力を貸してくれ」
静かに祈る。
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時間はゆっくり過ぎていった。 使用人たちも、普段の仕事をこなしつつどこか落ち着かない。 そんな空気の中、クロシェの来訪が告げられたのは昼の少し手前。 「カーネリア・クロシェ様、お見えになりました」 「愁馬様は」 「ご一緒です」 「よかった」 (物別れにはならずにすんだか) ひとまずはもう一度会えたことに胸をなで下ろし、玄関へ急いだ。 「愁馬、、、、、、」 「瑞樹さん、、、」 カーネリアに付き添われた愁馬はホールで足を止めていた。 背中に、カーネリアはそっと手を当てる。 「大丈夫だよ。言いたいことを、そのままぶつけて大丈夫」 「うん、、、、瑞樹さん、黙っていなくなってごめんなさい」 「無事でよかった」 「僕、、、、、」 瑞樹は愁馬を抱きしめていた。腕の中にいることが、ただ嬉しくて。 「お前に何かあったら私は、、、、、、」 その先は言葉にならない。 カーネリアは、自分はここまでと静かに背を向けた。 気づいたファルアもカーネリアの意図をくみ取り 腕を解いた瑞樹は周囲を見る。 「カーネリア?」 「戻られました。 「そうか、、、、愁馬、部屋で話そう」 「うん」 どちらからともなく手を取り階段を上がる。 その後姿は微笑ましくもあり、同時に抱える複雑さを見るようでもあった。 「私では与えらないものを、愁馬は与えてくれているんだろう。 「旦那様、、、、、」 絡瑛があの形で家を出たことを思えば尚更 |
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部屋に戻った2人は並んでソファーに座る。 「私とファルアの話が聞こえていたんだろう」 「僕がいると、瑞樹さんは困るのかなって思ったんだ。 「お前が謝ることじゃない。私のほうこそ、不安にさせてごめんな」 (言いたいことをそのまま、、、、僕は) カーネリアとの会話が頭の中を回る。そして愁馬が口にしたのは 「僕、彩華月愁馬になりたい」 「愁馬、、、、、」 「簡単じゃないって、カーネリアさんが教えてくれた。 「、、、、カーネリアがそう言ってくれたか」 家督の問題は、カーネリアにとっても他人事ではないのだろう。 またこの世界では、幼少の頃に親同士で決まる婚約も珍しくない。 「瑞樹さんは、、、、僕が子供になってもいい?」 「愁馬のことが嫌いじゃない。ただ、、、、 「うん」 「弟の絡瑛とは会ってるよな。覚えてるか?」 「生誕祭の時だよね。蒼いお花を教会に持って行った」 「ああ。私と絡瑛は、父親も母親も違うんだ」 「え、、、、、」 「絡瑛は、父が二度目の結婚をした時に 「、、、、、、」 「私にとっては二度目の母親。血の繋がりはない弟。 瑞樹は一言一言を、丁寧にゆっくり伝える。 「私は、最後までその女性を母とは呼べなかった。 「瑞樹さん、、、、、」 「でも、私が結婚してその相手と一緒に、彩華月としての仕事や 「じゃあ、、、、、」 「今すぐに何かが変わる訳じゃない。でも、いつかは変わる。 「うん、、、、ふえ、、、」 愁馬は瑞樹に抱きついた。瑞樹も優しく返す。 「瑞樹さんと一緒なら、頑張る」 「そうか」 顔を上げた愁馬は、瞳を潤ませながらも笑顔になった。 守りたいと、心から思う。 「お腹空いてないか?」 「大丈夫。カーネリアさんのお家で、ご飯一緒に食べさせてもらった。 「その前に、皆にも言わなきゃだめだろう。心配したのは私だけじゃない」 「あ、おじいさまやファルアさんにも、ごめんなさいって言わなきゃ」 ソファーを降りた愁馬は部屋を出ようとしたが 「あの、、、、ね」 「どうした」 「、、、呼んでみてもいい?」 真っ直ぐ見つめる瞳に頷き返す。 「、、、、大好き、お父さん」 「ありがとう。待ってるから、行っておいで」 「うん」 小さな足音が響く。その後ろ姿を、瑞樹は優しく見つめた。 |
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「彩華月愁馬か、叶うといいな」 リシャールの言葉に、カーネリアは意外だというような視線を向けた。 「そのままの意味だぞ」 「本気で心配をするとは思えなかったからな」 「あのな、、、、そこまで性悪じゃない。 「周りに気を遣うことが、生きる術だったんだろう」 (生きる術か、、、、カーネリアの場合は) 今まで務めた家は、極端に偏っていた。 甘やかされて育った我儘息子か、高すぎる教育で カーネリアが偏っているとは思わないが それもクロシェ嫡男として生きてきた証。 生き方を変えるつもりがないのなら、自分は支えるだけのこと。 そこに、ノックの音が聞こえた。 「失礼します。カーネリア様宛の荷物が届きました」 受け取ったのはリシャール。 背中を見るカーネリアは、いつものことかと思う。 そう、見合い写真が送られてくるのはカーネリアも同じ。 「今日は何冊だ」 「いや、そっちじゃないよ」 リシャールがテーブルに置いたのは小包だった。 「頼んでは紅茶だ」 届いたのは、贔屓にしている専門店に頼んでいた茶葉だった。 元帥府にも納めている高級店で 「いれようか」 「ああ」 紅茶を待ちながら、カーネリアは瑞樹と愁馬を思う。 彩華月愁馬。その名前を手に入れた後の道の険しさは それでもその道を選ぶのなら、険しさ以上の幸せを手に入れてほしい。 そうカーネリアは願うのだった。 |
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夜。月光の差し込む庭を瑞樹は見つめていた。
「私が父親か、、、、どう思う」
母や絡瑛が聞いたら何というだろう。浮かんだのは苦笑い。
その瑞樹を包むように、優しい風が流れた。