Night mare


「まったく、何だってこんな日に」

早く切り上げるつもりが、予定外の客で長引いてしまった。

アリエルは家路を急いだ。


上着を置いてリビンクに入ると、オルガが一人でいた。

「お帰り」

「遅くなって悪かった。フィータは」

「寝てる。もう悪い夢はみないですむだろう」

「、、、、どういう意味だ。医者に診せたのか?」

「ああ。理由もわかった。アズライルさんに助けられたよ」

オルガは朝からの経緯を説明した。

出た先でアズライルに会ったこと。

急変した容体とアズライルが気づいた原因。

「そういうことか」

「薬を正しく飲んでれば、一週間くらいで
 影響は抜けるだろうって言ってた」

「とりあえずは一安心だな」

原因と対処法がわかれば心持も楽になれる。

それはフィータも同じことだろう。

「あんな顔させないですむんだ。よかった」

「アリエル、、、、」

「フィータはそれで落ち着くとして、アズライルさんのほうだな」

「彼がどうかしたのか」

「ここまで世話になっておいてわかてるのは名前だけだろう。
 ちゃんと訪ねて礼を言いたいところだけど」

「、、、、、会える気がする」

「、、、、、」

「会いたいって思ったらそれが伝わるような気がするんだ。
 フィータのこと、見てくれているようなさ」

言葉なくとも、全てを包み見守っている。そんな感覚を、オルガはアズライルに対して覚えていた。

窓の外では穏やかな風が吹いていた。


7日後。

「御留守のようですね」

「3人で出かけておるのか」

アズライルとリシュナはアリエル宅を訪れたが、不在だった。

「またにするとしよう。そうじゃ、リシュナ付き合ってくれぬか」

「かまいませんけれど、どちらへ」

「そなたに見せたい風景があるのでな」

アズライルは町が見渡せる丘へ向かった。



「ん、、、、あれはフィータたちではないか」

「まあ、本当に」

丘には先客がいた。バスケットを傍らに3人が風に吹かれている。

真っ先に気がついたのはフィータだった。

「アズライルさんだ」

振り向いた3人に軽い会釈を返し、アズライルとリシュナは3人と一緒になった。


「ここで会えるとは思わなんだの」

「お外でご飯食べてたんだ」

「そうか、天気の良い日には気持ち良いであろう」

「お会いできてよかった。ご自宅に寄ってきたところなんです」

「そうだったんですか。
 フィータも落ち着いたし、アリエルも休みなんで
 簡単なピクニックでもって話になったんです」

「わざわざ足を向けて頂いたのにすみませんでした」

「いえ、こうして会えましたし。
 アズライル様、ここでもよろしいんじゃありません?」

「そうじゃな」

「アズライルさん、何持ってるの」

「これを届けようと思ったのだ」

アズライルは袋を手渡した。

「約束のものを持参した。
 先日はそれどころではなかったからの」

「開けていい?」

「もちろんじゃ」

出てきたのはケーキとクッキー。

甘い香りと香辛料の香りが
同時に鼻先をくすぐった。

「ありがとう。甘いのが僕で辛いのがオルガ。
 アリエルはどっちがいい?」

「極端じゃなければどっちでもいい」

「どのようなお菓子ですの」

「物はようわからぬ。
 甘い菓子と香辛料を使った菓子で
 質の良いものとだけ伝えたからの」

「お店の方が選んだ品ですから
 間違いはないでしょうけれど、、、、。
 あの、こちらのことは気にせず
 無理はなさらないでくださいね」

「選択を間違えたかの」

視線が集まる中、フィータが手を出した。

「いただきます」

かじったフィータの反応を4人は神妙な面持ちで待っている。

その理由には気がつかず、フィータは首をかしげた。

「どうしたの?」

「いや、、、フィータ、うまいか?」

「うん、甘くておいしい。オルガは食べないの?」

「、、、、、」

甘いよりは辛いほうが食べられるといレベルであり
目の前のこれは更に上をいく気がした。

手を出さないことと手を出して食べられないことと
どちらが失礼になるだろうか。

考えて、ひとまずこの場は流すことにした。

「俺は帰ってからにするよ」

「アリエルは」

「甘いほうをいただこうか」

選択肢として無難だろう。取って口に運ぶ。

食べられなくはないが1個あれば十分だ。

「あまり口には合わぬようじゃな。
 次回は別のものを考えるとしよう」

「大丈夫です」

「いや、食は美味しいと感じられる物を口にするからこそ
 感謝の念を抱けるのじゃ。
 命をわけてもらっていることを忘れぬためにもな。
 そもそも世界とは、他者との共存が前提であり」

「そこまでにしてください」

リシュナが止めた。

始まると長くなるし精霊がどうのこうのと
そこまで話がいってしまったら厄介だ。

「その話が始まると一日あっても終わりませんもの」

「と、つい、、、、すまぬな」

「これも?」

フィータは手にしたお菓子をアズライルに差し出す。

「生きるということは誰かに生かされているということ。
 同時にフィータの存在も誰かを生かしている。
 そういうことじゃ」

「僕は、、、、」

「難く考えずともよい。
 要はフィータが大好きな人のために何ができるか
 それを時々考えてみればよいのじゃよ」

「アリエルとオルガのためにできること」

「あまりお説教がすぎると、嫌われてしまいますよ」

「いえ、大切なことを教えてもらったんだと思います。
 アズライルさんの言ってることは
 俺とアリエルにもいえることでしょう」

当たり前にすぎる日常の中で忘れかけていたこと。

存在することがどれだけの価値を持つのか。

アリエルとオルガは改めて思い起こした気がした。

「オルガとフィータがいるから私もここにいられる。
 それを忘れずにいたいと思います」

「アリエル、、、、、」

「アズライルさんもリシュナさんもお友達。好きだよ」

「ありがとう」

「そなたたちとの縁、これからも大切にいたそう」

いくつもの出会いと別れが生まれては消えていく。

日々の営みからみれば
川の中の小さな石のようなものかもしれない。

けれどこの小さな石は、宝石よりもずっと価値のあるものだ。

その欠片を共有するような時間が優しく過ぎていった。








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