Night mare


「いつ来ても人の多い町よの」

サルバスに渡ったアズライルは市場の近くを歩いていた。

着物姿ではないせいか、以前のような視線は感じられない。

「さて、、、、来るかの」

再会できるなら、それは偶然の結果でいい。

そう思い、近くのベンチに腰を下ろした。すると

「アズライルさ〜ん」

声の方向を見れば、手を振りながらフィータが駆け寄ってきた。

後ろにはオルガ。

「会えたね。待ってたんだ」

「そのように急がずともよい」

「リシュナさんは」

「今日は我一人じゃ」

「会えてよかったな、フィータ」

「うん。この前の時とは違うね」

フィータはアズライルを上から下へと見る。

「服のことか?リシュナに目立ちすぎると言われての。
 先日のものは、この町では馴染みのない服のようじゃな」

「でも、きれいだったよ」

「そうか。礼を言うぞ」

「アズライルさんは、サルバスじゃない町も知ってるの?」

「キエヌになら足を向けたことはあるが」

「ほんと?僕もアリエルとオルガとキエヌに行ったんだ」

フィータの話は止まりそうになかった。

少しの間なら、このままフィータを頼んでも大丈夫かと思い
先に買い物を終わらせてしまおうかと考えた。

「すみません。少しフィータといてもらえませんか」

「オルガ?」

「我はかまわぬが、どうした」

「買い物終わらせてくるよ。そんな荷物にはならないし。
 フィータ、すぐ戻るからアズライルさんと一緒にいてくれ」

「うん、、、、そうだね」

買い物に失敗したことは、フィータの中で消えずに残っていた。

だからこそ尚更、オルガとアリエルの言葉は絶対。

「わかった。待ってる」

「お願いします」

「承知した」

人の中に消えるオルガを、フィータは寂しそうに見送った。

「お買いものできなかったから、やっぱり怒ってるのかな」

「怒っているわけではない。
 話の邪魔にならぬよう、気を使ってくれたのであろう」

「、、、、いなくならないよね。夢だよね」

「悪い夢でも見ておるのか?」

「さよならって、、、、。
 どうしてって訊いても、何も言ってくれないんだ。
 いい子にしてる。いい子にしてるから、、、、、、。」

「フィータ、夢におびえる必要はない。
 あの2人はそなたを一人になどせぬよ」

失いたくない。傍にいたい。ただそれだけ。

「いなくなるなんて、嫌だ」

アズライルはそっと腕をまわした。

「思いつめるでないぞ。先のことは誰にもわからぬ。
 気に病んだとて、己を苦しめるだけじゃ」 

「アズライルさん」

「しかしな、心から望んでも叶わぬことはある。
 誰が悪いのではなく、本当にどうしようもない時がな。
 それは、わかっておらねばならぬぞ」

「、、、、、、」

フィータは答えずに身体を預けた。アズライルも静かに受ける。

言葉のないまま、時間がすぎていった。


「ん、終わったようじゃな」

市場の中から人をかき分けてオルガが出てきた。

「お待たせしました」

「お帰りオルガ。何買ってきたの」

「今日の夕飯」

「食卓をともに出来る相手がいるのはよいことじゃ」

「オルガやアリエルみたいに一緒にご飯食べる人
 アズライルさんにはいないの?」

「我は食べずとも、いや、、、その」

「リシュナさんは?一緒じゃなの?」

フィータから当然と言いたげに出た名前。

浮かんでくるのは小言のほうが多いような気がするが
気遣うからこそ向き合って伝えてくれる。

「リシュナがおるから
 我は迷っても戻ることができるのじゃな。
 そなたにとってのオルガ殿たちと同じように、必要な存在よ」

「ねえ、そしたみんなでご飯食べよう」

「みんな?」

「我らもか?」

「うん。アリエルとオルガと
 アズライルさんとリシュナさんとみんな」

「そうさのう、、、、、。
 天気のよい日に、外で食事をするのも心地よいであろう。
 いずれ機会ができれば、席を並べさせてもうらとしよう」

教会の鐘が鳴った。

「あまりリシュナを待たせても悪かろう。我はこれでな」

「きっとだよ。忘れないでね」

「離れていても、そなたたちのことは胸に留めておるよ」

「ばいばい」

「ありがとうございました」

小さくなる後姿は、やがて霧のように消えた。

「何だか世間離れした人だな。やっぱり金持ちか」

「お家どこなのかな」

「事情があるんだろう。
 言えないものを無理に聞くこともない。さ、帰ろう」




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