妙薬


翌日。

「かかってるわね」

妖しの里に向かった弥杜が
陽が落ちても戻ってこない。

人里の人間と鉢合わせの可能性は十分ある。

最悪、一戦交えたかもしれない。

「大丈夫、、、、帰ってくるって言ったもの」

信じている。

それでも一人は静かすぎて
美海は弥杜がよく唄っていた歌を口ずさんだ。

「美海が唄うと、また違って聞こえますね」

声に振り向くと、待っている人の顔があった。

飛び降りた美海は足元に駆け寄る。

「怪我してない?大丈夫?」

「大丈夫です」

微笑んで返し、抱きあげてソファーに座った。


「誰にも会いませんでした。
 人が住んでいたとしても、そんなに近づいてはいないけれど」

「よかった」

「さっきの歌、まだ覚えていたんですね」

「大好きだったもの。今でも弥杜の歌好きよ。
 忘れるなんてしないわ。また唄って」

「ええ」

無事な姿に胸をなでおろした美海は
目的だった物に話を移した。

「薬草はどうだった」

「季節がら手に入らない種類もありますから
 完璧とはいえませんが、それなりには作れるでしょう。
 明日から調合にかかります」

「白竜さんに上手く効くといいわね」

「どこまで効果がでるかはわからないけれど
 あるのとないとでは、気の持ちようも違うでしょう。
 きっといい方向に向かってくれる。
 まずは、作る私がそう信じなければね」

「里を捨てて、人の中で
 人でないことを悟られないよう生きてきた。
 どうしてそこまでって、思う時もあったけど
 生きたから、迦螺霧さんたちの力になることもできた」

里を捨て生き延びろとの命令に
抗戦を求める声も上がった。

妖しの長である大帝こと魅影
側近だった珂晶が最後まで残り
説得をして送り出していた。

その光景は今でも忘れられない。

「一人でも多く、無事に生き延びてくれればいい。
 大帝が望んだように」

「、、、、そうね」

命令に従って生きて良かったと。

そう、より多くの同胞が思える今であることを
弥杜と美海は祈るのだった。


「兄さん?」

打ち込まれた牙はそう時間を置かずに離れた。

「もういいの?」

「ああ、大丈夫だ」

「僕はまだ平気だよ。
 そうじゃなくたって兄さん間あけてくれるし
 すぐに抜いてるのに」

「無理はしてない。
 それに弥杜さんのほうも
 そろそろ目途をつけてくれるだろう」

言いながら傷を拭い襟元を正す。

そのた度に目に入るのは、消えずに残った牙の跡。

それでも共に生きていくと決めたのだから。

「お前を残して、どうにかなったりしないよ」

「兄さん、、、、」

「助けられてばかりだ。本当に」

車道に出てしまい弥杜に助けられたこと。

迦螺霧が薬を依頼したことも聞いたと、蛍雪には伝えた。

「悔しい思いも苦しい思いもしたけど
 ちゃんと助けれくれる人に会えるようになってるんだね」

「ああ」

「迦螺霧さんのこと、いつかは父さんて呼べるのかな」

「、、、、、お前は許せるのか?」

「迦螺霧さん、すごく気を使ってくれてる。
 危なくないようにとか、香りのいい華を飾ってくれたりとか。
 僕たちのためにって、考えてくれてるんだと思う。
 それに、今更誰かを恨んだって過去は変えられないもの。
 迦螺霧さんのこと憎いとは思わないよ」

「そうか」

蛍雪も自分と同じように感じていたのだろう。

ならば、いつかきっと。

「すぐには無理かもしれない。
 だけどいつか呼べる日がくるだろう。
 今は、そう信じられる」

「兄さん、、、、」

「焦らなくてもいい。
 私たちの気持ちだけを考えたら一方通行だからな。
 お互いにとってよりいい形が、きっと見つかるさ」

「うん。そうだよね」

いつか、そう遠くない未来。

重ねた手に願いを乗せた。

ノックの音がして、迦螺霧が姿を見せた。

「弥杜がきてる」

「弥杜さん、じゃあ」

「薬ができたのか?」

「完成したそうだ。ここで構わないか」

「いいよね、兄さん」

「ああ」

目には見えない希望が形になった瞬間
上に乗っていた白竜の手には無意識で力が入った。









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