空白を超えて


ホムンクルス。それは精霊使いの手から生まれる命。

精霊が持つ4つの基礎効力を引き出し
命の精霊マナを呼ぶことで、新たな命を創る。

シェスタは、闇戯、ジャステアという
2人のホムンクルスを知っているが、完成度という意味で
目の前にいるホムンクルスは、随分と雑な印象を受けた。

「嘆きの淵、戦場跡に置き捨てられたホムンクルスならば
 争いの兵力として求められたのでしょうね」

「そんな昔からあの場所に?」

「打ち捨てられ、長い眠りにつき目覚めた。
 新しいマスターを認識した時点で、前の情報を消去し
 新たな命令を待つのも、全て戦闘用に計算されたこと」

「そんな、、、、ホムンクルスの生成は命を創ること。
 使い捨ての道具じゃありません」

「そうは考えられない時代だったのですよ」

「同じ、、、、生きている命なのに」

だがやはり、彼の表情は変わらなかった。

目の前の会話が、自分のことだという認識も無いだろうと
シェスタは思う。

「イレーネ、まずは名前を考えてあげらどうです。 
 それこそ、製造番号が名前ではかわいそうでしょう。
 それから服も。
 シルフィの工房で少し揃えてあげたらどうですか」

「そうですね」

「私の名前は」

「製造番号と名前は違うのよ。
 あなたの名前は、私が考えてあげる」

「マスターの命令に従います」

(まずはこの認識から改めなきゃ)

険しい道のりだが、このままになど出来ない。

イレーネは心を決めた。

「シェスタ様、今日はここまででよろしいでしょうか。
 これからの整理もしたいので」

「では、彼のことはお願いしますね。
 何かあったら、報告をください」

「わかりました。行きましょう」

「はい」

「失礼します」

シェスタは頷き、優しい瞳で部屋を出る2人を見送った。

 




「さて、、、、」

彼に関しての憶測は間違っていないだろう。

だが、ホムンクルスのことなら彼らのほうが詳しい。

「行ってみるか」

最高位の精霊使いから創りだされた、最高位のホムンクルスである闇戯。

その闇戯が命を与えたジャステア。

シェスタは、この2人が生きる地へ向かった。

湖を隔てた向こう側。翼を持たぬ命が生きる、もう一つの世界。

打ち捨てられた離れ里で、闇戯は静かに月を見上げていた。

「銀色の月か」

漆黒の空に銀色の月が浮かぶ。

「闇戯様」

共に暮らすジャステアが庭に下りてきた。

「今夜の月は一層美しいですよ」

言われたジャステアは同じ月を見る。

「本当に、宝石のようです」

人工の光が無いこの地では、月の光こそが眩しい。

「ん?あれは」

「何かが、、、横切った?羽音?」

月明かりを翼の影が遮った。近づくその姿は

「ほう、、、黒の統括とは」

「わざわざ御出でになるなんて、どうされたのでしょう」

「見当もつきませんね」

やがて、黒の統括シェスタが降り立った。

「御出でなさいませ」

「あなた様がここに来る要件など検討もつきませんが
 何かありましたか」

「突然すみません。あなたに訊きたいことがあって」

「私?」

「ええ。ホムンクルスである、あなたに」

闇戯の表情が、一瞬動きを止めた。

だがすぐに、いつもの感情を読ませない顔になる。

「ホムンクルスの何を知りたいと?」

「統括様、向こう側でホムンクルスを必要としてるのですか?」

ジャステアが遮った。

この時点で新たにホムンクルスが見つかったなど
2人が知りえるはずもない。

ホムンクルスを必要とするのなら、まず自分たちからだろう。

2人だけの静かな生活が奪われるのだろうかと
そんな不安がよぎる。

「闇戯様をお連れになるというのなら、私も」

「ジャステア、違いますよ。あなた方をどうこうではありません」

不安を払うようにと、シェスタは優しく返した。

「本当に、少し訊きたいことがあるだけです」

「、、、、わかりました。申し訳ありません。先走りまして」

「伺いましょう。どうぞ」

「ありがとう」

月光を残し、3人は館に入った。
 





「それで、私に訊きたいことというのは」

「先日、私の部下が嘆きの淵でホムンクルスではないかと
 思われる人物を発見しました」

「嘆きの淵、、、闇戯様」

「続けてください」

シェスタはこれまでの状況と、そこからの推測を話した。

「あなたなら、この状況をどう思いますか」

「統括様の推測で、間違いないと思いますよ」

「そうですか」

「ホムンクルスの成功を知った、時の統括が求めたのも
 同じ型でしたからね。意思も感情もない。
 ただ、命令に従うだけのホムンクルス。
 アルムは要求を断ったけれど、ほかの精霊使いが
 従った可能性は十分あります」

ここでシェスタには一つの疑問がわいた。

兵として求められたのなら、それなりの数が創られたはず。

何故今になって、彼だけが発見されたのだろうか。

「目的がそのようなことならば
 相当数が創られたと考えられます。
 何故今になって彼だけが発見されたのでしょう。
 それも、嘆きの淵で」

「ホムンクルスが命を終える方法は
 よほどの例外を除いて2通り。
 核となる紅水晶に蓄積された、マナを失うか
 創り手によって、紅水晶が破壊されるか。
 その型なら、マスターの命令でも可能ですね」

「マナを散らし、消滅しろ、と」

「ええ」

「命を創りだすことが
 どれだけ重い意味をもつと思っているんだ」

「当時はアルムのような考えが少数派だったのですよ。
 それに、私とて結局は軍を預かり、戦場に身を置いた。
 、、、、、わからないものです」

当時を思い出すかのように、一瞬視線を揺らし
闇戯は話を戻した。

「停戦の後、大半は自然消滅か用済みと見なされ
 水晶を破壊されたかだと思いますが
 当時の戦場に放置されたのならば
 最後の最後で、破壊が忍びなくなったのか
 後始末すらも面倒になったか、、、、、、」

「後始末だなど」

「私は、それを見てきた。
 同じホムンクルスが、壊されるのを」

「、、、、、、」

闇戯の言葉に何も返せない。責めではないと、わかっても。

「何であれ、今となっては真相を知ることなど出来ません。
 すべては、過去なのですから」

今を支えている過去の重さを
シェスタは改めて知るような思いだった。




 
 


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