天空に捧ぐ花束


数日後、ケイオスは無事職場に復帰した。

「無事だったか」

「しかしお前も無茶するよな。あたり悪かったら死んでたぞ」

同僚の反応も様々あったが、誇らしげに思ってくれる仲間たちにケイオスは感謝する。

「長官は」

「長官室にいるよ」

ケイオスはカシュトゥールの部屋に足を向けた。


「長官殿、ケイオスです」

「入れ」

「失礼します」

「今日からだったな。傷の具合はどうだ」

「職務に支障はありません」

「そうか。これからもよろしく頼む」

「はい」

「ところで、君宛に預かっているものがあるんだが」

「どなたからでしょう」

「ハンナから。回帰祝いだそうだ」

「、、、、、」

その名前で浮かんだのは
店の前で仲のよさそうな雰囲気のあの光景だった。

大切な人だと言っていた、嬉しそうな顔。

カシュトゥールにしてみれば
恋人から他の男に対しての贈り物を預かったのだ。

当然、いい気持はしないだろう。

ケイオスの中で瞬時に思考が回った。

断ったほうがいいのだろうか。

しかしハンナの好意を無にしたくはない。

考えあぐね、言葉の出ないケイオスに直球が投げ込まれた。

「ハンナのこと、どう思っている」

「え、、、、どう、とは」

「そのままの意味だ」

「あの、、、、それは」

ケイオスは一つ息をのんだ。

ハンナに対する感情。それを正直に伝えるのなら

「心の優しい、思いやりのある素敵な女性だと思います。
 お2人の幸せを、心より願っております」

「、、、、、」

カシュトゥールは黙ったままケイオスを見ていた。

これ以上近づくなというなら、従うつもりだ。

「私の都合で誤解が生じているのなら」

「誤解しているのはそっちだろうな、おそらく」

「長官?」

「ハンナは私の妹だ」

「え、、、、、」

くすりと小さく笑う。

「その顔だと、恋人だと思っていたか」

「妹、、、、あ、、失礼いたしました!」

勝手な思い込みと早とちりが情けなくもあり
つい声が大きくなった。

そんなケイオスに、カシュトゥールはさらりと続けた。

「安心したか?」

「はい、え、、、あ」

うまく誘導され出た言葉に、ケイオスは更に焦った。

仕事でもここまで冷汗がでたことはない。

「わ、私は、その」

「覚えておこう」

「、、、、、」

この状況では
何を返したところで言い訳にすらならないだろう。

ケイオスはあえて黙った。

カシュトゥールは預かっている花を差し出す。

ハンナが好きだと言っていた黄色の花。

「ありがとうございます。ハンナさんにも」

「私から礼を伝えるつもりはない」

「、、、、、」

「それくらい、自分で伝えろ」

「し、、、、しかし」

あの立てこもり事件の時とは違いすぎる姿だった。

「やれやれ、、、、そんなに難しいことか?
 ハンナの店、よく使っているんだろう」

カシュトゥールのいう通り
店の前を通ったときにでも声をかければいい。

だが、彼女の願いとソプレーゼの想いを知り
頼んでいた花の名前を忘れていたことに気がついた。

月命日の花を欠かさないくらい大切な人。

彼女のことをこう言ってくれたハンナに
今の自分は会う資格があるのだろうか。

「私は、、、、傷つけてしまいます」

「、、、、、、、」

「ハンナさんにも同じことをしてしまう。友人と、、、、そして」

「あの時駆け寄った相手、昔の恋人に似ていたのか」

ケイオスを気遣う気持ちがなくはないが、礼儀は礼儀だ。

「一言でいいよ。ハンナも無事な姿を見れば安心するだろう。
 あの事件以来、ずっと気にしていたからな」

「、、、、、、わかりました。人づてのほうが失礼ですね。
 近いうちに寄らせてもらいます」

「そうしてくれ」

「では、戻りますので」

「無理はするなよ」

「はい」

ケイオスは花束を優しく抱えて長官室を出た。


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