天空に捧ぐ花束


「いらっしゃいませ」

「こんにちは」

その日花屋に姿を見せたのはソプレーゼだった。

「いつもケイオスが頼んでる花束って、どれかな」

「まだ病院なんですね」

自分が動ける状態なら、他にあの花束を頼みはしないだろう。

「傷の具合、どうなんですか」

「快方に向かってるよ。
 大事を取って少し長くなってるけど、大丈夫」

「よかった。作りますね。少し待ってください」

ハンナはいつもの花束を作り始めた。

白と淡いピンクでまとめられた、大切な花。

「ふわふわで可憐な花が似合う、素敵な人だったんですね」

「ハンナさん」

「あたしには似合わないだろうなって」

「そんなことありませんよ」

「小さい頃からお転婆って言われてましたもの。
 ようやくじゃじゃ馬が大人しくなったなんて
 兄さんはいつまでも昔のままのつもりなんだから」

「お兄さんがいるんですか」

「ええ。あ、ケイオスさんと同じ職場なんですよ」

「ケイオスと?じゃあ、警備隊に」

「長官なんです」

「え?」

「サルバスの警備隊長官として、この間帰ってきたんです」

「警備隊長官、、、、あの人」

「兄さんを知ってるんですか?」

ソプレーゼは酒場での歓迎会を思い出していた。

そしてケイオスと2人で飲んでいた光景。

「その、お兄さんの歓迎会で店を使ってもらったんです。
 あの人がハンナさんのお兄さんだっていうのは、今知ったけど」

「あ、そうですよね。
 兄さんがソプレーゼさんのお店を使うことも
 ケイオスさんと一緒にお酒を飲むこともあるわけだし」

そう思うと、カシュトゥールが先日の会話で何を考えたのか
少しばかり不安になった。

ハンナの片思いだど確信していた様子を思い出す。

間違ってはいないのだが。

毎日顔を合わせるのだから、そのつもりがなくとも
2人の間で自分の話がでることもあるだろう。

「兄さん、余計なこと言わなければいいけど」

余計なこと。

その一言が、ソプレーゼの琴線に引っ掛かった。

「余計なことだったのかな、やっぱり」

「ソプレーゼさん?」

「いえ、病院でこの花束を頼まれた時
 話の流れでケイオスに本当のことを言ってしまったんだ」

「あ、、、、、」

ベンチで聞いた昔の恋物語。

大切な人の本当の想いを、ケイオスは知ったのだ。

「それで、、、、、」

「今更それを知ってどうしろっていうんだ。怒鳴り返されたよ」

「、、、、、」

よかれと思って続けていたことが
本当は大切な人の想いと逆だった。

どれほどの痛手だったろう。

ソプレーゼも同じように
ケイオスの想いと大切な人の願いの狭間で揺れている。

「ケイオスも彼女も、私を許しはしないかな」

「悪意があったわけじゃありませんもの。
 今は驚いているだけだと思います。
 きっと、ケイオスさんも大切な人も受け入れてくれるわ」

「、、、、、だといいけど」

「ソプレーゼさん、この花のいわれを知ってますか?」

「え、いや、そこまでは」

ハンナは抱いた花束を見つめた。

「昔、サルバスにあった美しい花園に天使が降り立った。
 美しい花に魅せられた天使は、花を抜いて持ち帰ろうとした。
 ほとんどの花を抜き取られた花園は荒れ地に変わってしまう。
 でも一つだけ、天使が持ち帰らなかった花があるんです」

花束がソプレーゼの腕に渡る。

「それが、この花?」

「ええ」

「どうしてかな。こんなに綺麗なのに」

「綺麗じゃなかったから」

「、、、、、」

「伝わっている話によれば、この花は地味で目立たなくて
 咲かせる花も暗い色だった。
 だから抜かれずに残ることができたんです。
 そして、花は月に向かって願った。
 もう一度、荒れ地に花を咲かせたいと。
 月はその願いを受け入れ
 暗く目立たない花を綺麗な色の花に変えた。
 そんな言い伝えが残ってるんですよ」

「花の、、、、願い」

「この花は深い慈愛の象徴。
 美しい花園を育て、守り、包み込む強くて優しい花。
 この花が大好きな人なら
 きっと花と同じ心の持ち主だと思います」

「ありがとう。ハンナさんにも、この花似合いますよ」

「いえ、あたしじゃなくて大切な人のためにある花だもの。
 届けてあげてください」

「、、、、、もしも君なら」

「私なら?」

自分とケイオスが同時に手を差し出したなら
ハンナはどちらの手を取るだろうか。

ふと、そんな思いがよぎった。

だがそんな仮定をすること自体が、ハンナに失礼だろう。

「いえ、何でもありません。それじゃ」

「はい」

ソプレーゼは、大切な面影とハンナの優しさを花に乗せて店を後にした。


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