天空に捧ぐ花束


立てこもり事件の後処理を済ませ、カシュトゥールが帰宅する頃には夜も更けていた。

さすがにこの時間まで待ってはいないだろうと思っていたが
見えてきた家からには明かりがついている。

カシュトゥールは駆け戻った。


「よかった、、、、無事だったのね」

「ハンナ」

カシュトゥールの顔を見たハンナは
ようやくといった感じで胸をなでおろした。

「心配したのよ。
 号外で立てこもり事件があったって」

「そうか。不安な思いさせて悪かった」

「無事なら、、、、いいわ。せっかく帰ってきたのに」

そこまで言って言葉につまる。

仕事上、危険と隣り合わせなのはわかっていても
万が一の時に割り切れるかと問われれば、答えはNO。

失う不安は消えることがない。

「ハンナ、、、、」

「ごめんなさい、大丈夫。今日は疲れたでしょう。
 あったかいお茶で一息ついて」

「遅いからいいよ。休みなさい」

「一緒にお茶を飲むくらい許してくれないの?
 心配させたって思うなら、少しくらい夜更かしさせて」

「少しどころじゃない気もするけどな。でも、それでお前が安心できるなら」

「座ってて。すぐ用意するわ」


「号外は事件発生しか知らせてないけど、怪我した人はいなかったの?」

「間に入った隊長が撃たれてね」

「え、、、、、」

「発砲されても、やけになってる相手に君を助けたいと言った。
 考えさせられたよ。私たちの仕事はどうあるべきなのか。
 あの男は、どうしてそんな境涯にたどり着いたんだろう」

「その隊長って、、、、、名前は?」

「ケイオス」

「ケイオスさん、、、、、」

「知ってるのか?」

ハンナは詰め寄る勢いで返した。

「怪我ってどんな具合なの?命に関わるほど?
 今どうしてるの?」

「ハンナ、落ち着け。
 一度に全部は答えられないよ」

「そ、、、そうよね」

珍しく慌てた様子に
カシュトゥールは一つの考えが浮かんだ。

だが、とりあえず先に質問に答える。

「急所は外れてるから命にまで係る傷じゃない。
 今は病院のベッドの上だ」

「ほんとに?治る傷なのね?」

「ああ」

「よかった」

カシュトゥールを迎えた時と同じように
ハンナは大きく息をついた。

そして視線を止めて自分を見ているカシュトゥールに気づく。

「何?」

「恋人か?」

「え、、、、ち、違うわよ」

「なら片思いか」

「ちょっと待って」

「何とも思っていない相手に
 そこまで慌てなくてもいいと思うけどな」

「ケイオスさんはお客様なの。お店、使ってもらってるから」

下手な言い訳かもしれないが、間違いではない。

それにケイオスには、忘れられない人がいる。

「本当にそれだけよ」

「むきになるところが、ますます怪しい」

「、、、、、信じてないわね」

こつんと、頭に手が乗る。

「この兄を誤魔化そうなんて、まだまだ早いということさ」

「もういいわ」

ハンナの片思いだと、カシュトゥールは確信した。

そしてケイオスが抱えている面影は誰なのだろうと思う。

一瞬とはいえ、あの傷を忘れるほど強く心に在る誰か。

「さ、いい時間だろう。お茶ありがとう」

「兄さん、ケイオスさんが仕事に戻る日がわかったら教えて」

「別に面会謝絶じゃない。見舞くらい大丈夫だよ」

「いいから、お願い」

ハンナはハンナで思うところがあるのだろう。

「わかった。はっきりしたら教える。
 本当に遅くなるから、これくらいにしよう」

「ありがとう。それじゃ、、、お休みなさい」

「お休み」

リビングを出るハンナを見届け、カシュトゥールも自室へと引き上げた。


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