




天空に捧ぐ花束
「生きてたか」
「、、、、、」
「号外が出て
その後警官負傷の報道を見たからまさかとは思ったけどな。
ずいぶん無茶をしたそうじゃないか。まったく、何考えてんだ」
「見舞か冷やかしか、どっちなんだ」
「いい方にとれ。お前の葬式なんて、考えたくもない」
「とりあえず、素直に受け取っておくよ」
「とりあえず、、、、ね。ひねくれ者」
「何か言ったか」
「いいや、別に」
いつもと変わらない調子の会話に
ソプレーゼは胸をなでおろしていた。
あとは回復に向けて専念するだけだろう。
だが、思った矢先にケイオスはこう告げた。
「会ったよ。彼女に」
「何?」
「、、、、、」
「、、、彼女って」
「ああ」
「、、、、、痛みで幻でも見たんだろう」
「真っ直ぐ伸びた黒髪で、こっちを見てた」
ケイオスがどこまで本気で言っているのか
にわかに不安になる。
一瞬の幻を、本物だと受け取っているのだろうか。
ケイオスが一番わかっているはずなのだ。
墓前に花を届けているケイオスが。
「しっかりしろ。彼女はもういない。
第一、毎月の墓参りをしてるのはお前だろう」
「ソプレーゼ?」
「あ、、、いや」
月命日の墓参りをどうしてソプレーゼが知っているのか。
疑問に思ったのは一瞬だった。
「ハンナさんから聞いたのか」
「私のほうから聞き出したんだ。
ハンナさんのことは悪く思わないでくれ」
「いいさ。口止めをしてたわけじゃない。
、、、、、そうだよな。何も答えてはくれないよな」
「ケイオス、、、、、」
ソプレーゼも、忘れられぬ人を思い出していた。
「そんなに似てたのか」
「一目見た時は、本当に彼女が生きていたのかと思った」
告げた方がいいのだろうか。
自分だけが知っている本当の想いを。
それを知ったなら、ケイオスは今よりも楽になるのか。
「もうすぐだろう。彼女の月命日」
「そうだな」
「代わりに頼まれてくれないか」
「、、、、、わかった。どの花を届けてるんだ」
「それは」
言いかけたケイオスは、この時初めて気がついた。
「私は、、、、、」
「ケイオス?」
”いつもの”
その一言で綺麗に出来上がってくる花束を
そのまま届けていたことに。
いつしか花の名前そのものを忘れてしまっていたことに。
「何を、、、、、やっていたんだろうな」
「、、、、、、」
「”いつもの”。その一言でハンナさんが作ってくれる。
それが当たり前で、私が花の名前を忘れているなんて」
「ケイオス、、、、、」
「怒ってるよな。受け取ったって迷惑なだけか」
打ちのめされたといった様のケイオスに
ソプレーゼはかける言葉が見つからない。
「いっそ、、、、助からずにあのまま」
「そいつは考えすぎだ」
「あの時、、、、告げていれば」
彼女の望み。
それは、自分の影に縛られずにケイオスが生きること。
そして今、叶えられるのは自分だけだと、ソプレーゼは思う。
「(いいよな、、、、、守ってくれ、ケイオスを)」
心の中で強く願い、託された想いを言葉に変えた。
「彼女は、お前が好きだったよ」
「急に、、、、どうしたんだ。慰めなんか」
「慰めなんかじゃない。こんな嘘、誰かつくか」
「ソプレーゼ、、、、、」
「彼女に好きだって告白したのは、私の方だ」
「何、、、、うっ」
思わず乗り出してしまったケイオスは肩を押さえる。
「その時に、自分が好きなのはケイオスだって、彼女は言ったよ」
「、、、、、、、」
「そのすぐあとだ。難しい病気だってわかったの」
「嘘だろ、、、、、。言ってたじゃないか。
最初に素敵な人を見つけて祝福されたかった。
お前だって、聞いてただろう」
「ああ。それが、お前を想っての彼女の嘘だ」
「私のため?」
「あの状況で彼女が好きだって言ったら、お前どうしてた」
「治らないとしても、一生大切にするさ。
看取ることになっても、一緒になろうって結婚を申し込んで」
「それをしてほしくなかったんだよ」
「、、、、、」
「自分の影でお前の将来を縛りたくなっかった。
お前の未来を捕えて離さない、そんな存在になりたくなかった。
だから、本当の想いを言葉にしなかったんだ」
「、、、、、」
亡き人の想いはあまりにも深く誠実で。
そして悲しいものだった。
病床にあってまでそんなにも気遣っていたことを、今知ろうとは。
結局最後まで自分が苦しめてしまったのだ。
「今更、、、、今更それを知ってどうしろっていうんだ!」
自責と後悔で揺れるケイオスだったが
「苦しかったさ、私だって」
聞こえた声にソプレーゼを見る。
「私に知っておいてほしい。
それがどんなに辛いことわかってはいても私だから言える。
ケイオスを頼むって」
「ソプレーゼ、、、、」
「悔しかった。
いつも3人でいたのに、なんでお前なんだって。
お前ならよくて私では駄目で、何が違うんだ。
彼女の本当の想い、お前が彼女を好きだって私だけが知って
それでも、ここにいなきゃいけないのかって」
押し殺した声はいつになく低い。
ソプレーゼもまた、自分だけで抱えてしまい込んでいた苦しさ。
「、、、、、憎い恋仇だったんだな、私は。
それでも変わらない素振りでいたのは
彼女の遺言を守るためか」
「それでお前が納得するなら、かまわない。
けどな、憎い恋仇が同時に親友であること
それも悪くないと思ってるよ」
「、、、、、、、、」
「じゃあな。傷大事にしろ」
「、、、、、悪かった」
答えはしたものの、病室を出るソプレーゼをケイオスは見ることができなかった。