天空に捧ぐ花束


「隊長!武器を持った男が立てこもっていると通報がきました」

入った一報に、緊張が走った。

「場所は」

「メイン通りから一本外れた所です」

「出られる者は来てくれ。長官にも連絡を。行くぞ」

「はい」

ケイオスは現場へ急いだ。

改装中の店の前に人が集まり
ざわめきと緊張が入り混じった独特の雰囲気を漂わせていた。

「下がってください、下がって。あ、隊長」

「様子は」

「今のところ怪我人はでていません。男が一人です」

「武器は」

「銃です」

ケイオスは中を窺った。

広いとはいえない中に、テーブルがいくつか。

一つが横倒しになっている。

「構えておいてくれ。ただし、ぎりぎりまで発砲はするなよ」

「隊長、一人では」

「誰も死なせたくない。いいな」

「、、、、、はい」

ケイオスは一人でゆっくりと進んだ。

「いるんだろう。どうしてこんなことしてる」

「く、、、、来るな」

聞こえた声は震えていた。

「怖がらなくていい。話がしたいんだ」

「それ以上、、、、近づいたら」

「撃たないでくれ。
 君が発砲したら同じことをしなきゃならない。
 私たちは君を助けたいんだよ」

「助ける?」

「ああ、そうだ」

「嘘だ、、、誰も、みんな嘘ばっかりだ」

「嘘じゃない」

「来るな!」

銃声が響いた。

「隊長!」

テーブルの影から飛び出した男の銃弾が
ケイオスの肩を撃ち抜いた。

背後の隊員が構える。

「撃つな!」

「隊長、、、、」

「もう、、、終わりだ。何もかも」

「待ってくれ、、、、ぐ、、、」

激痛に歯を食いしばりながら
それでもケイオスは止まらなかった。

そして男の前で膝が折れた。

「、、、何でだ、、、、俺は、、、」

「言った、、、ろう、、助けると」

「俺は、、、、撃ったんだぞ」

「、、、終わりじゃない。やり直せる。うぐ、、、、」

ケイオスは真っ直ぐ男の瞳を見る。

責めるのではなく、早まるなと伝えるために。

「つまずいたって、やり直せる。
 人は、、、、何度でも、歩きだせる。
 たの、、、む、、、信じてくれ。、、、銃を、、、」

「こんな、、、、俺でも」

「、、、誰でも、同じだ」

仲間たちが発砲しないよう、ケイオスは強く願った。

すると

「わかった。、、、、あんたなら」

男は銃を放した。

「、、、ありがとう」

隊員が一斉に入り、男を連れ出す。

誰かがケイオスを支えた。

揺らいできた視線で、自分を支える相手の顔を見る。

「長官、、、、」

「すぐに病院に運ぶ。致命傷じゃないからな」

「まだ、、、会えないのか」

「ケイオス?」

「、、、、、いえ」

致命傷であったなら、かの人に会えただろうか。

助かったことをどう思っているのか。

それは、ケイオス自身にもわからなかった。

 
 

「長官、担架がきました」

外から声がかかった。

「中へ入れてくれ」

「歩けます。外へ」

「ケイオス」

「手を、、、、貸していただければ」

「無理するなよ」

ひとまず外へ出る。集まった人だかりをぐるりと見回した。

その中の一人に、ケイオスは息のをのんだ。

「嘘、、、だろう」

「隊長?」

「ケイオス!?」

すっと動いた影を、ケイオスは追っていた。

「待ってくれ。君は」

「無理をするなと言ったばかりだろう」

追いついたカシュトゥールの言葉も聞こえていないかのように
ケイオスは目の前の女性を見つめた。

「君は、、、、」

「知りあいなのか」

相手はケイオスに驚く様子もなく穏やかに返した。

「どなたかと、お間違えだと思います」

「、、、、他人の空似?」

「そんなに似ているのかしら。あなたの思い出のかたと」

忘れらない面影が重なる。

「名前を聞かせてくれないか」

「そこまでにしろ。致命傷じゃなくても撃たれてるんだぞ。
 驚かせてしまって申し訳ありません」

わかっているつもりだった。もう帰らないと。

だから、好きだった花を届けているのに。

名前を聞けば。

違う名前を聞けば、この幻を幻だと受け入れられるのだろうか。

最後の賭けのように、ケイオスは声を絞り出す。

「、、、、頼む」

「紫水と」

「紫水、、、、」

真っ直ぐ伸びた黒髪が揺れる。

「手当を急いでください。
 あなたの大切な人も、あなたが生きることを望んでいるはず。
 あなたのことが、何よりも大切だから」

「知って、、、いるのか?かの、、、じょ、、、」

「ケイオス!」

「隊長!」

「お騒がせしました。これで。急げ」

ざわめきの中、ケイオスは病院へと運ばれた。

 



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