天空に捧ぐ花束


街角の小さな花屋。

そこで働くハンナは、店に並ぶ花のような明るい笑顔だった。

横では友人が少しばかり呆れた様子でハンナを見ている。

「まったく。いくら待ってた人が帰ってきたからって
 そんなに笑いっぱなしじゃ顔がゆるむわよ」

「べ、べつに、そんな」

「わからないじゃないけどね。久しぶりだろうし」

「ほんと、、、、どれくらいたったのかしら」

「こっちに落ち着けそうなの?」

「今のところは、そう言ってるけどね」

仕事の都合で離れて暮らしていた大切な人。

その人がつい先日サルバスに戻ってきたのだ。

「待った分、思いっきり甘えなさいな」

「ちよっと」

友人の言葉にハンナは思わず頬が赤くなる。

「それじゃ、また寄るわね」

「またね」

友人を見送り、ハンナは仕事に戻った。

 

「、、、、いい雰囲気って、そんな風に見えてたのか」

店の近くを通りかかり、ケイオスは同僚の言葉を思い出した。

「女性として素敵な人だとは思うけど、、、、、 そう、隣に立つなら私よりも似合う相手がいるだろう」

あくまでも自分は客の一人。

馴染みの店に顔を見せることくらい、おかしくはないだろう。

そう思いながら、ケイオスは店先に足を向けた。

「こんにちは」

「ケイオスさん。いらっしゃいませ」

少しだけ驚いて、ハンナは返した。

「今日は、、、、」

ハンナは小さく首を傾げた。

ケイオスが店に来るのは毎月同じ日。大切な人の月命日と決まっていた。

そろそろではあるが、ケイオスは制服だった。

ハンナの疑問を察し、ケイオスは答えた。

「いえ、、、近くを通ったので」

「そうですか。お仕事ご苦労様です」

いつにもまして、気持ちのいい笑顔が向けられた。

「そう言ってもらえると、やりがいもあるかな。
 ハンナさんは、どんな花が好きなんですか?」

いつもは花を買う客としての会話しかないが、思いもかけず話が進んだ。

ハンナはさらに、にこやかになる。

「あたしはこの黄色い花が好きなんです。
 赤だと強いし、蒼は綺麗だけれど少し寂しそう。
 この花は、見てるとあたたかくなれる気がして」

「あなたに似てますね」

「あ、、、ありがとうございます」

「何かいいことでもあったんですか?」

「え?」

「何だか嬉しそうだから」

「や、、、やだ。顔にでてるのかしら」

「当たりですか」

「、、、、、帰ってきたんです」

ハンナは友人との会話を思い出した。

「長いこと仕事の都合で離れて暮らしていたんですけど
 やっと帰ってきてくれて」

ハンナの様子から
本当に大切な相手なのだろうとケイオスは思う。

「大切な人なんですね」

言われてハンナは気づいた。

ケイオスの大切は人は帰ってこないのだと。

「ごめんなさい。あの」

「謝ることはないでしょう」

「でも、、、、、」

「やっぱり呆れてるかな。花を届けても帰ってくるわけじゃないのに」

「いえ。そんなことありません」

「ハンナさん」

「忘れられないくらい大切で、素敵な方だったんですよね。
 そこまで思ってくれること、喜んでいると思います」

「、、、、、ありがとう」

時計台の鐘が鳴った。

「それじゃ、これで」

「はい」




 



数軒分歩いたところで、逆からカシュトゥールが歩いてきた。

足を止めたケイオスは敬礼をし、カシュトゥールも返した。

それを互いに挨拶としすれ違った後、ケイオスはふと思う。

「大切な人、、、、帰ってきたって、まさか」

ハンナとカシュトゥール。互いから聞いた話を繋げてみる。

ハンナが言う帰ってきた人。カシュトゥールの言う待たせた人。

もしかしたらと、ケイオスは振り返った。そしてやはり。

「、、、、、そういうことか」

店先には、いい雰囲気の2人がいたハンナの想い人が自分の上司。

「別に、、、、だからって」

ケイオスは再び歩き出した。

だからと言って、何かが変わるわけではない。

そのはずなのだが、何故か2人の姿が離れなかった。

 

「今日はお前の手料理を食べられるんだろう」

「悪かったとは思ってるわよ。でも、ずっと前からの約束だったから」

「わかってるさ。だが、もう少し喜んでくれると思ってたけどな」

「、、、、嬉しいわ。十分」

自分の名前を呼ぶ声だけで、懐かしさと嬉しさが胸を満たす。

「長いこと1人にしてしまった。寂しい思いもさせたろう」

「大丈夫。信じてたもの」

ハンナは自分の手とカシュトゥールの手を重ねた。

「ハンナ、、、、」

「きっとサルバスに戻る。帰ってくるからって」

カシュトゥールが戻ってから少し甘えすぎのような気もするが
空白を埋めるにはこれくらい許されてもいいだろう。

そんな2人に、道行く人の視線が集まってきていた。

そろそろ切り上げ時か。

「何が出てくるか楽しみにしてるよ」

「好きなものたくさん作るわ。今なら、、、、」

ハンナは市場に並ぶ食材をあれこれと思い浮かべる。

「ちなみに、苦手なものは変わってないからな」

「相変わらず偏食なのね」

「誰にだって苦手なものはあるだろう。偏食は言いすぎじゃないのか?」

「大丈夫、ちゃんと外すわよ」

「すみません」

「いらっしゃいませ。それじゃ後でね」

「ああ」

接客に戻ったハンナを優しく見つめ、カシュトゥールも歩きだした。

 
 



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