天空に捧ぐ花束


サルバスの警備隊庁舎。

快晴のこの日、新しい長官の歓迎式が始まろうとしていた。

「新しい長官、ずいぶん若いって聞いたけど」

「年寄りだろうが若かろうが、一緒に動いてくれればいいさ」

「確かに。前のは命令だけだったからな」

前長官はすごぶる評判が悪かった。

大きい声で口は出すが自分から動こうとしない一番嫌われるタイプで、この交代は誰もが歓迎をしていたのだ。

「酒を飲める上司だといいな」

同僚の呟きに、隊長の一人であるケイオスはあきれた声で返す。

「何を期待してるんだ」

「そりゃ、たまには酒をおごってくれる上司」

「、、、、、呑気なやつ」

「お前が真面目すぎるんだよ。
 前のみたいに、口だけ動くよりましだろう」

「いや、真面目に見えて隅におけないぞ」

別の同僚の一言に、向きを変えた。

「花屋の綺麗な娘さんと、随分親しげだったじゃないか」

「な、、、、ちょっと待て」

聞きつけた数人から、意外といった視線が向けられた。

「一回、二回じゃないけどな」

「ケイオスがね、、、、浮いた噂なんか聞きやしないのに」

「いつの間にそんな相手見つけたんだよ」

「誤解だ。確かに店を使ってはいるけど
 お前たちが想像してるような相手じゃない」

「それにしては、いい雰囲気だったけどな」

「それ以上言うな。それから、ハンナさんにも
 迷惑になるようなこと言わないでくれよ」

「心配するってことは、少なくとも 、、、、、、わかった、わかったよ」

無言の圧力を込めたケイオスの眼差しに、同僚は話を終わらせた。


「ケイオス、そろそろじゃないか?」

「ああ、時間だな。みんな集まってくれ」

迎える側の代表を任されているケイオスは、周囲に一声かけた。

整列してほどなく、新しい長官カシュトゥールが入った。

「長官殿に敬礼」

前に出たケイオスの声を合図に一斉で敬礼し
カシュトゥールも返す。

「サルバスを預かることになったカシュトゥールだ。
 サルバスの安全を守り
 よりよい街にするため力を尽くしたい。
 宿場町の警備は重い責務だろうが
 団結してよろしく頼む」

「警備隊一同、長官殿を歓迎いたします。
 決意を新たに、己の責務を果たすことをここに誓います」

そして各々自己紹介と続き
無事にカシュトゥールを迎えることができた。


その日の夕刻。

ケイオスの視線の先では、さっそくカシュトゥールが数人に囲まれている。

「やれやれ、、、、、」

初日からこれでは先が思いやられると、言葉にはならない溜息が落ちた。


カシュトゥールが長官となって2日。ケイオスは一人で酒場を訪れた。

酒を運んできたのは、友人でもあるマスターのソプレーゼ。

「一昨日は一緒じゃなかったんだな」

「一昨日?」

「警備隊の長官、交代したんだろう?一席設けてたよ」

「ああ、、、、どんな感じだった」

「気さくな人みたいではあったけど。
 逆に、長官殿のほうが気を使ってた感じだな」

「あいつら、、、、、」

思い浮かんだのは
”たまにはおごってくれる上司”と言った同僚だった。

仕事上では変わった様子もなかったが
何となくの不安を覚える。

「まさか、長官殿が払ったなんてことないよな」

「会計は見てないから何とも言えない」

くすりと、小さくソプレーゼが笑った。

「どうした」

「本人に訊いてみるといいよ。いらっしゃいませ」

「、、、、、、」

振り返った先に、当の本人カシュトゥールがいた。

「先日はどうも」

「こちらこそ。ケイオス隊長だったな。かまわないか?」

「はい」

「では、同じものを」

「ごゆっくり」


「長官殿、一昨日こちらを使ったとか」

「ああ」

「あの、うちの連中何か失礼はなかったでしょうか」

「かまえて警戒されるよりはいい」

取りようによっては、何かがあったとも思える。

「すみません。根は悪い奴じゃ」

「心配するようなことはないよ。
 前任の評判が良くないのは聞いていた。
 その分、歓迎されたということだ」

「そういっていただけるのでしたら、何よりです」

「仕事のことはこれくらいでいいだろう」

カシュトゥールは懐かしそうに店を見渡す。

「サルバス、、、、変わらないな」

「長官殿はサルバスのご出身ですか」

「ああ、しばらく離れていたがね。
 警備隊長官の交代話が出た時、自分から志願したんだ」

それは、この町に大切な人がいるということなのだろうか。

待っている人が。

そんなケイオスの思いを裏付けるように
カシュトゥールは続けた。

「長いこと1人にしてしまったから
 ようやくその分を取り戻せるかな」

「そうでしたか、、、、、」

「だが、こっちがそう思っていたら今夜は振られたよ。
 友人の家に招かれているからと。
 つれないと思わないか?」

「あ、、、その、、、、、」

「ま、そういうわけだから付き合ってもらえると
 ありがたいんだが」

「はい。私でよろしければ」

気さくとのソプレーゼの読みは当たりなのだろう。

うちとけた雰囲気で、2人は酒を酌み交わした。


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