天空に捧ぐ花束


いつもより早く店から上がったハンナは買い出しに出た。

市場に向かって歩いていると、知った後ろ姿が見えた。

「あれは、、、、ソプレーゼさん」

「ん、、、、ああ、ハンナさん」

声に振り返ったのは、酒場の主ソプレーゼ。

「買い物ですか」

「はい。これからお仕事ですよね」

「ええ。途中まで一緒にいいかな」

「もちろんです」

さりげなくハンナに歩調を合わせ、並んで歩きだした。

「そういえば、ケイオスが使ってるんですよね、あなたの店。
 花が好きだっていうのは聞いたことなかったけど」

「大切な人のための花だから、あまり人には言ってないんじゃないかしら」

「大切な人?」

「あ、、、いえ」

自分が言うことではなかったと、ハンナはにごして返した。

だが、ソプレーゼには思い当たる相手がいる。

「その話、詳しく聞かせてもらえませんか」

「え、、、、あの」

「お願いします」

勢いのついてしまったソプレーゼに少し臆したが
ひとまず事情を聞こうとハンナは頷いた。

「毎月同じ日に同じ花を買ってもらっているんです。
 大切な人の月命日だって教えてくれました」

「あいつ、、、、」

「相手の方、ご存じなんですか?」

「多分、、、、彼女だと思う。幼馴染なんだ。
 私とケイオスと、思ったとおりの人なら」

昔の淡い恋物語。

ソプレーゼは懐かしそうに、少しだけ寂しそうに話しだした。

「いつも一緒だった。いることが当たり前で、当たり前すぎて
 変わるなんて思いもしなかった。
 彼女に好きだって告白したのは私の方」

「え、、、、、」

「だけど振られたよ。自分が好きなのはケイオスだって」

「、、、、、」

「そのすぐ後だった。彼女が難しい病気だってわかったの」

「辛かったでしょうね。両想いになって」

「いや、それも違うんだ」

「どうしてですか?ケイオスさんも好きだったんでしょう?だから」

「彼女は病床でこう言った。
 一番早く素敵な人を見つけて、2人に祝福されたかったのに」

「そんな、、、、」

「ケイオスの未来を縛りたくなった。そういうことだろう。
 好きだって言えば、ケイオスはきっと一緒になろうって言う。
 難しい、治らない病だとしても一生大切にする。
 彼女はそれをしてほしくなかった。
 自分の影でケイオスを縛りつけてしまうのが嫌だから。
 私にだけ、打ち明けてくれたよ」

「ケイオスさんは、その方の気持を知らないままなんですか?」

「ああ、、、、私の知る限りケイオスも告げていないはずだ。 
 自分以外の誰かと未来につながる恋をしてほしい。
 それが、彼女の望みなんだ。だけど、逆の方向にいったみたいだな」

「どうしよう、、、、、あたし」

「君が気にすることはない」

「でも、、、、、」

知らなかったとはいえ、亡くなった女性の想いと
裏腹の言葉をケイオスに伝えてしまった。

何も知らないままでは、ケイオスも大切な人も
そしてソプレーゼにも辛い思いででしかないのではなかろうか。

だが、当事者以外が口を出せることでもない。

「ごめん。心配かけるつもりじゃなかったんだ」

「いえ」

「どっちがあいつのためなんだろうな。
 忘れろって、言える立場じゃないけど」

ソプレーゼも同じように、その人を想いつづけているのだろう。

それが3人にとって良いことなのかは
ハンナにもわからなかった。

「よけいな心配かけてしまったね。気にしないでくれ。
 それじゃ、、、、ここで」

「はい」

先に歩きだしたソプレーゼを見送る。

「大切な人、、、、、あなたはどう思っているの?」

眠る人は、ケイオスが届ける花束をどう思っているのだろう。

訊けるものなら、伝えることができるなら。

問いかけながら、ハンナも市場へと歩き出した。








 





別れたソプレーゼは丘にいた。

静かに、胸の奥で眠る人を思い出す。

「ケイオスは今でも君を想ってる。私だって、忘れるなんてできないさ。
 君は今のケイオスをどう思っているんだ。
 喜んでいるのか、悲しんでいるのか、、、、、」

3人でいたころの風景が嫌でも蘇ってくる。

昨日のように鮮やかに。

見つめるキエヌの街は、あの頃と変わらない。

「、、、、、君だけがいない。
 私とケイオス、町の風景は何も変わらないのに」

耳の奥で、懐かしい笑い声が響いた。

 



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