Crossing Road


「ん、、、、」

夜中。虎丞の耳に届いたのは、コツンという音だった。

小さな明りをつけて部屋を見る。すると、小さな鳥が窓をつついていた。

すぐにわかった。絽帆の式だと。

窓を開けて中に入れると同時に呼び鈴が鳴った。

「絽帆、、、、まさか」

虎丞は部屋を出た。


「兄さん、、、、そんな」

「やっと動けるようになってこちらへ来させてもらいました。
 私が一人で向かってもきっと」

「その判断でよかったと思うよ」

リビングで3人顔を合わせていた。

白竜は相手が接触してきたこと
そして絽帆が一人で向かったことを伝えた。

「絽帆から式が来てるんだ。ちょっと待って」

「その鳥ですか?」

「絽帆が飛ばしてきたものだ。何があったかはこの鳥が見てる。
 鳥が見ていたものを、僕も見ることができるんだ」

「妖しだから可能なことなんですか?」

「妖し、術師なら大抵できるよ。よっぽど低能力なら別だけど」

虎丞は鳥を手に乗せて目を閉じた。

式が見ていた戦い。絽帆が伝えてきた言葉。

そして、男の腕の中で動かない絽帆。

一通り受け止めて、虎丞は目を開いた。

「、、、、わかった。ありがとう」

虎丞は鳥を放した。

「まったく、、、無茶なことを」

「何があったんですか?絽帆さんは」

「今度は絽帆がそいつに操られてる」

白竜と蛍雪は息をのんだ。

「わざと憑かせたんだ。一人じゃきついって判断したんだろう。
 自我の意識をわざと消して、いや消すっていうか
 無意識の表には出ない所に押し込めたって言うのかな。
 言葉で説明するのは難しいんだけど」

「私を襲ってきた男の精神が、絽帆さんにとりついた」

「じゃあ、今の絽帆さんは」

「容れ物は絽帆。でも中で動かしてるのは、その妖し。
 僕に接触させて、2人になったところで
 自我をもう一度表に出すって考えみたいだよ」

「、、、、想像つきません」

「賭けは賭けだけど、絽帆は出来るって踏んだ上でのことだろう」

「僕たちのためにそんなことまで」

「僕が生きてるってことは、まだ希望はあるさ。
 そいつが次に向かうとすれば、やっぱり酒場かな」

「もう一度私に会いに、そういうことですね」

「でも会わないでよ」

「しかし、こうなってまで見ているだけなんて」

「きついかもしれないけど、何もできないんだ」

「、、、、、」

「虎丞さん、、、、」

「絽帆の力は僕より上だった。
 その絽帆が、2人のほうがいいって判断したんだ。
 並みの相手じゃない。ありがとう、白竜さん。
 そう思ってくれるだけで十分だから、同じことさせないで」

食い下がれば力づくで止める。

虎丞は、そう言っているのだ。

跳ね返せるものは、白竜にない。

せめて力が制御できれば、何か出来るかもしれないのに。

守られるほど、懸命になってくれるほど
白竜は悔しかった。

それでも白竜が返せる言葉はこれだけ。

「、、、、わかりました」

「虎丞さん、、、、どこですか」

「蛍雪?」

蛍雪は立ちあがると虎丞を捜した。

虎丞は手を取って止める。

すると、蛍雪は手探りで虎丞を抱きしめた。

「忘れないでくださいね。僕はお2人に戻ってきてほしい。
 100人の内99人があなたたちのこと必要ないって言っても
 僕はお2人のこと待ってます」

「ありがとう。とりあえず、その倉庫に行ってみる。
 2人はここにいて」

「はい」

白竜もソファーを立って、虎丞の隣に立った。

「気休めにもならないとは思いますが」

指輪を外し、虎丞に差し出す。

「せめて、心だけは連れて行って下さい」

それは、目には見えないけれど強く優しい想い。

「白竜さんが悪いわけじゃないよ。
 持っている物が違えば出来ることも違う。 
 今回の一件は、たまたま僕と絽帆の役回りだった。
 それだけのことさ。(それに、、、、一人じゃない)」

頷き、受け取った。

「それじゃ」

指輪を握りしめて、虎丞は宵の町へ出た。













虎丞が戻るまでさほど時間はかからなかった。

「どうでした」

「誰もいなかった。
 ずいぶん派手にやりあったみたいで
 中は滅茶苦茶だったけど」 

「私を襲った男が今の絽帆さんを動かしているのなら
 私を襲った時に男が動かしていた身体は」

「憶測だけど、命を落としたものの恨みつらみが消えなくて
 その想いだけが残って彷徨っていたんじゃないかな。
 そしてキエヌに流れて、キエヌの住人に憑いて
 事件を起こしていた。 
 乗り移っていた意識が離れれば
 その人本来の意識が戻ると思うけど、確実とは言えない」

「これからどうすればいいんですか、僕たち」

「明日、、、もう今日か。
 一休みしたら、店の周りを歩いてみるよ。
 白竜さんはこっちにいてくれるかな」

「はい」

「絽帆の姿で事件を起こす前に見つかればいいけど」

今事件を起こして目撃されたら絽帆が犯人だ。

それだけは避けたい。

「向こうが店に足を向けてくれるのを願うしかないね。
 ベッドは白竜さんと2人で使ってくれる?
 狭いとは思うけど、落ちる心配はないと思うよ」

「わかりました」

「何処に何があるかは見てもらえればわかるだろう。
 クローゼットは開けてくれてかまわなから
 着る物はそこから適当に出していいよ。
 部屋はここを出て右に突き当たって左側。
 蛍雪さん、任せても大丈夫?」

「はい。わかります」

「じゃあ、先に休んでて」

「虎丞さんは」

「一杯飲んでからにする」

前に踏み出そとした蛍雪を、虎丞は止めた。

「兄さん」

「では、先に休ませてもらいます。お休みなさい」

「お休み」

「、、、、お休みなさい」

2人を見送り、虎丞はボトルを開けた。

絽帆一人で手に負えなかった相手だ。

自分だけで止められるとは思えない。まして器は絽帆。

「僕と会ったら目覚めてくれるんだろうね」

夜を見つめる瞳が揺れた。






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