Crossing Road


絽帆と白竜。虎丞と蛍雪。

この組み合わせでの生活が数日すぎたある日。

入ってきた客に、白竜は息をとめた。

給仕をしながら目を配っていた絽帆は視線の先を追う。

(あいつか?)

テーブルについた相手は白竜を呼んだ。

客として来ている以上無視はできず
白竜の足がテーブルに向く。

二言、三言の会話をしてテーブルを離れた。

そのまま様子を見ていると、別の給仕がグラスを運んだ。

それからは白竜を呼ぶこともなく、一人でグラスを進め
やがて店を後にした。

「あいつがそうか」

「ええ」

「何を言っていた」

「店が終わったら、埠頭の近くの倉庫で待っていると」

「やっぱり接触してきたな」

「とにかく店を終わらせましょう。後のことはそれから」

「わかった」

とりあえずは持ち場に戻り、通常通りの営業を終えた。


他の店員を帰し2人だけになった。

「やはり人への復讐を手伝えと要求してくるつもりでしょうか」

「可能性としては一番高いだろうな。
 その要求なら断るだろう?」

「もちろんです」

後の成り行きは想像がついた。

断った白竜をそのまま帰すとは思えない。

ならば、初めから自分だけ出向いたほうがいいだろう。

「俺が行くよ」

「え、、、一人でですか?」

「行って断ったお前を、そのまま帰すとは思えないからな。
 だったら初めから一人の方が遠慮なしに当たれるし。
 それと、酷な頼みだろうけど」

一呼吸置き、絽帆はこう言った。

「朝になっても戻らなかったら、虎丞に事情を説明してくれ」

「待って下さい」

「白竜が納得いかないのはわかる。
 けど、これが一番堅実なんだ」

「、、、、、」

確かに自分がいても足手まといなだけだろう。

それはわかる。だが

「あなたを犠牲にして私たちに生きろと言うんですか」

「まだわからないさ」

「無事に帰ってくることを願ってます。
 けれど、逆の可能性だってあるんでしょう」

「無事に戻る可能性を高くするためだ。待っていてくれ」

「、、、、わかってます。足手まといになることは。でも」

「仕方ないか」

「ぐ、、な、、、、」

絽帆が唱えたのは動きを封じる言霊だった。

「何を、、、、」

「しばらく動けなくなるだけだ。害はない」

「、、、、、」

「もしもの時は虎丞にすまないと伝えてくれ。
 そしてできるなら、虎丞を傍に置いてやってほしい」

「絽帆さん、、、、」

「戻ること、祈っててくれ」

足音が遠ざかって行った。

「、、、、どうして何もできない。力があるのなら、、、妖しなら」

白竜は絽帆の無事を願うことしかできなかった。










「埠頭近くの空き倉庫、、、、要は鍵のないやつってことか」

絽帆は並ぶ倉庫を調べていった。

そのうち施錠のない倉庫にあたった。

外に式神を置いてから中に入ると、あの男がいた。

「待たせたかな」

声に振り向いた男は、絽帆を見ると怪訝そうな眼差しを向けた。

「誰だ」

「酒場のマスターの代理だ」

「何、、、、」

「当人が来たら何を言うつもりだった」

男は答える代りに放ってきた。それを止めて弾く。

「ほう、、、お前もか」

「新聞を騒がせていた犯人、お前だな」

「この町で立て続けに妖しと会うとはな。名は何という」

「名乗る理由もないだろう」

「つれないことを言うな。
 せっかく会えた同胞ではないか。
 お前も人間には辛辣な目にあわされてきたのだろう。
 さあ、共に進むとしよう。
 世界は人の物だけではないと思い知らせてやろう」

やはり要求は人への復讐。

絽帆も妖しで、人を憎んでいると疑っていないのだろう。

男は笑っていた。

説得では止められないと、絽帆は判断した。

「悪いが手を貸すつもりはない。
 俺は人への復讐を止めに来たんでな」

「何、、、、」

とたん、男は表情を変えた。

「こういうことだ」

絽帆は妖しだけを滅する炎を放った。賭けは承知の上で。

「く、、、、これは」

男は防護壁を張った。そして気がついた。

「お前、、、、術師」

「、、、、、」

「そうか、、、人里にいた人間ならば、まして術師なら
 いくら殺しても足りるものか!」

それはあまりにも純粋な憎しみだった。

「人里の人間を恨むなら、まだわかるさ。
 だが、このキエヌに住む人間を襲う理由がどこにある」

「人は皆同じ。所詮我らの敵よ。
 お前も我が物にしてくれる」

激しい力のぶつかり合いになった。

言霊と爆音がいくつも響いた。

力そのものに大差はなかった。

違いがあるとすれば、想いに対する純粋さかもしれない。

そして

「ふう、、、、しかし、見込み違いか」

足元に倒れている絽帆を見下ろす。

放ってきた気の強さのわりには
あっけなかった気もするのだが。

「まだ使えそうだな。
 妖しに使われる術師とはどんな気分だ?
 この器、もらうぞ」

その時、一羽の鳥が飛んだ。


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