Crossing Road


翌朝。

「いったい、何処にいるんだ」

軽く飲んだ後店の周りを歩いてみたが、らしい人影はなかった。

事件を起こしていないことを願うが
知るのは絽帆を動かしている妖しのみ。

式を飛ばしてもみたが反応はなかった。

見つけられなかったか、あるいは潰されたか。

相手が相手だ。おそらく後者だろう。

時間はかけたくない。何かないのか。

考えていると、白竜たちがリビングに入ってきた。

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよう。少しは眠れた?」

「はい」

「座ってて」

2人分のお茶をいれテーブルに置く。

「あれから外に出たんですか?」

「店の周りを少し歩いてみたけど空振りだった。
 式にも捜させてるけど、今のところ応答無し。
 居場所なんて見当つかないから、歩き回ってみるよ。
 それと、白竜さんのほうで持ってくるものある?
 この家にある物は使ってくれてかまわないから、それ以外」

「いえ、特に急ぎの物はありません」

「じゃあ、何か食べられないものは」

「食べ物ですか?私は別に」

「僕もないですけど」

「なら、よっぽど変った物じゃなければ大丈夫かな。
 少し出てくるね」

「あの、どこへ」

「市場だよ」

朝市での買い物は絽帆の日課だった。

大抵自分が起きる頃には遅い朝食が出来上がっている。

当たり前だと思っていたそんなことも
当たり前ではないと思い知った。

「適当に食べられそうなもの買ってくるよ」

「すみません、何から何まで」

「いいよ、気にしないで。早めに切り上げるから」

「お願いします」

「気をつけて。虎丞さん」

念のためにと式を残し、虎丞は市場へ向かった。









外は久しぶりの青空だった。

港近くの朝市は新鮮な魚貝が並ぶ。

手慣れた様子で、それらをさばく絽帆の姿が思い出された。

まだ人の少ない道を歩いていた虎丞は
目に入った姿にぴたりと足をとめた。

「絽帆、、、、」

ベンチに、捜していたその相手が座っていた。

「どうするかな、、、、」

こんな場所で妖し同士やりあうわけにはいかない。

人気のない場所で2人になるには
どう話を持っていけばいいだろう。

考えた方法に、虎丞は大きく息をついた。

「まったく、、、、中で聞いてないでよ」

虎丞は近づいた。


「ねえ」

「ん?」

「昨夜はどうして来てくれなかったの?待ってたのに」

「、、、、」

隣に座り身体を寄せる。

「他の客の相手してても、あなたのこと待ってた。
 店に来るって約束、忘れちゃった?」

演じたのは情夫だった。

相手にしてみれば、何処のだれとも知らない男だ。

いい獲物に見えるだろうことに賭けたのだ。

「絽帆、どうしたのさ。他にいい相手を見つけたの?
 僕にはもう飽きちゃった?
 それなら、、、、諦めるからもう一度だけ」

(絽帆、、、この術師の名前か。男を買っていたとはな。
 まあいい。なかなか美しい獲物だ)

絽帆は虎丞を引き寄せた。

「忘れてなどいない」

そして唇を重ねてきた。

「(ちょっと、ま)ん、、、ふ、、、、」

初めてだった。

振りほどきそうになるのを、どうにかこらえる。

「、、、こんな所で」

「挨拶代わりだ。誰もいない」

「今夜は会える?」

「誰もいない所で2人だけになろう」

「じゃ、埠頭で待ってる。10の鐘が鳴る頃に」

「わかった」

先にベンチを立ったのは絽帆だった。

残った虎丞は、音を立てる胸をおさえる。

絽帆であって絽帆ではない。

伝う涙がどんな感情なのか、虎丞にはわからなかった。


適当に買い物を終わらせて家に戻った。

リビングに入る前に式を呼ぶ。

「かわったことは」

「かわったというか、気になることが」

「、、、、何」

「あの2人の傍に何かいるようです」

「見えるものではないってこと?」

「はい。念というか想いですね」

「実害は」

「それはありません。本当にいるだけです」

「そう、、、、わかった。もういいよ」

式を拠代に戻したところで扉が開き、白竜が顔を出した。

「お帰りなさい」

「お待たせ」

「今、、、、」

「どうかした」

「、、、いえ、何でも」

(聞こえたかな)

式との会話が聞こえたのかもしれない。

だが、今の白竜に式をとっさに認識できるわけもなく
白竜は気のせいだろうと思いなおした。

そして虎丞も、実害がないのならとりあえずはいいと
”何か”の追及はしなかった。

それよりも今は絽帆だ。

「蛍雪さんも中にいる?」

「はい」

「じゃあ中で話そう。絽帆に会ったよ」

「本当ですか!?」

「これだけ置いてくるから、入ってて」

「はい」

買ってきたものをキッチンに置き、虎丞もリビングに入った。

「虎丞さん、絽帆さんと会ったって本当ですか」

「向かう途中のベンチにいたよ。今夜会う約束はつけた」

「向こうは虎丞さんが妖しだと気がついたんですか?
 やはり、私を捜していたんですか?」

「それは、、、ごめん、そのへんは終わったあとでいいかな」

「、、、、、」

情夫のふりをしたとも言えず、虎丞は言葉を濁した。

白竜も、聞かれたくないことにまで
踏み込める立場でないことはわかっている。

任せると決めたのだから。

「わかりました。お2人の無事を祈ります」

「僕も信じてます」

「ありがとう」

ここで倒れれば後がない。迷いは命取りの隙になるだろう。

だから、出来るか否かは別にして覚悟はしておかなければ。

絽帆ごと討ち取ることを。その時は

(、、、、その時は僕もだよね。恨み事はあの世で聞くから)

虎丞は自分を呼ぶ声を、胸に刻み込んだ。







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