


Crossing Road
「遅いな、、、、、」
何をするでもなく、虎丞はただひたすら待った。
自分が生きているということは無事なのだろうが
やはり帰ってくるまでは落ち着かない。
「絽帆、、、、どうして僕を生かしたの」
訊くことはないけれど消せない問いかけ。
目を閉じればあの日が鮮明に浮かぶ。
カタリ。音が聞こえた。
「絽帆?」
「、、、、、」
部屋の入口で、絽帆は虎丞に視線だけ投げた。
「無事なんだよね」
「一応はな」
部屋に入り、虎丞の前に立った。
「犯人には振られたけど、襲われた当人とは会ったよ」
「ほんと!?」
虎丞は噛みつくような勢いで返した。
「俺たちも知ってる相手だ」
「僕たちが?」
虎丞は知っている顔を思い浮かべていった。
数少ない中で、顔を合わせる機会が多いのは酒場のマスターだ。
「まさか、酒場のマスターが」
「当たり」
「生きてるの?」
「わき道に座り込んでた。手を出したら弾かれた」
「弾かれた?」
「そう。こんなふうに」
絽帆は虎丞の手を取って、わざと気を弾いた。
「つ、、、、」
「どういうことか、お前ならわかるだろう」
「嘘、、、、そんなこと」
「今まで人の中で生きてきて
妖しの部分が表に出ることはなかったらしい。
運悪く妖しに襲われ、眠っていた部分が目覚めた。
言えるとしたらこんなところか」
「あのマスターが、、、、」
虎丞は唖然と自分の手を見つめた。
わかるが、その先の言葉が出てこない。
「正確にいえば半妖だ」
「半妖?ちょっと待って。一息入れさせて」
予想もしなかったことについていくのが精いっぱい。
虎丞の中で、絽帆の言葉がぐるぐると回る。
「弟さんがいたよね?2人とも?」
「2人ともだ」
「そういえば、、、、、噂はあったな。
人間の女との間に子をもうけた奴がいるって」
「向こうはお前にも会ってみたいといってる」
「え、、、会うって」
弟の方は知らないが、白竜とは店で顔を合わせている。
この場合の会うというのはつまり。
「僕のことも話したの?」
「妖し相手なら知られて困ることじゃないだろう。
俺が人里にいた術師だってことも話したよ」
「、、、、どうして一緒に暮らしているかは」
「成り行きとしか言ってない」
「(成り行き、、、、確かにそうだけど
絽帆にとってはそれくらいのことなんだ。一緒にいる今も)
いいよ、会っても」
「店を開ける前に連れていくって話してある。
そのつもりでいてくれ。それから」
最後に強くなった口調に
ボトルに伸びた虎丞の手が止まった。
「同じ飲むでも、やけ酒みたいな飲み方するな」
「、、、、成り行きなら、そんな心配しなくてもいいよ」
「虎丞」
「(気まぐれに拾った猫。そんなものだよね)お休み」
言うだけ言って虎丞は部屋を出た。
「虎丞、、、、」
あの日から過ぎた時間は自分と虎丞の何かを変えたのだろうか。
変わったものがあるのなら何。
「なあ、、、お前は何がしたい」
絽帆はグラスに映った己に問いかけた。
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翌日、2人は昼前に白竜の家を訪ねた。 「わざわざありがとうございます。弟の蛍雪です」 「初めまして」 「よろしく」 「妖しや半妖しといっても、外見はかわらないんですね。 「今じゃもう、何処に誰がいるかなんてわからない。 「正直、暗がりだったのと自分が混乱していたこともあって 相手は人を憎んでいる妖し。 そして相手も、白竜が人でないことは気がついただろう。 もしも自分が絽帆に会う前に妖しと会っていたならば。 「絽帆、相手の出方の見当はついてるんだろう」 「ああ。まあな」 「私たちに対して何か、ということですか?」 「そいつはこの町に同じ妖しがいることを知った。 「敵も何も、僕たちはこの町で生きていきたいだけです」 「向こうはあなたたちの事情なんて考えないよ。 「虎丞、、、、」 「、、、会ったとして、関わらないでほしいといえば 「兄さん、やめて」 「蛍雪、、、、」 「そんな訊き方しないで」 「いいよ。僕だって同じだ。憎んでた。 これ以上自分のことに踏みこまれる前に 「相手が人に対して憎しみしか持っていなくて 「、、、、どうすればいいんですか。 「張り込むか」 「ここに?」 「ああ。新たに事件を起こすより 「それは、、、そうだけど」 「虎丞、お前は戻れ」 「ちょっと待って。もしもの時は2人抱えて応戦するつもりなの」 「同じ妖しとやりあえるのか?」 「でも、、、、」 「どちらにしろ、僕が足手まといなんですね」 対抗できる術がないうえに、目が見えない。 自分と兄を守ろうとして絽帆が倒れるくらいなら。 「兄さん、僕たちのせいで傷つけるよりは」 「蛍雪、、、」 「この町で生きて、いろんな人に助けられた。 蛍雪の言わんとするところは 「そうだな、、、、いっそ」 「白竜たちが消えてもそいつは事件を起こす。 「でも、僕たちのせいで絽帆さんに何かあったら」 「あなたたちを守ることはそいつを止めることでもある。 「虎丞さん、、、、」 ならば一番効率のいい方法は。絽帆は考えを巡らせた。 「そいつは、蛍雪の存在は知らないんだよな」 「あれから会ってはいなし、、、知らないと思います」 「俺がここにいて 「僕が、虎丞さんと?」 「守りながら応戦する事態になったとしても 「、、、、、わかった」 「虎丞さん、、、、でも、やっぱりだめです」 「僕はいいよ」 「だって、同じ妖しで同じ場所で生きてたんでしょう。 「そうなるって決まったわけじゃない。 「それでも、相手を止める最善の方法なんですね」 傷つく者が最小ですむ方法ならば、他に選択肢もない。 「お任せします」 「兄さん、、、、」 「蛍雪、どんな判断であれ 「、、、、わかった。兄さんたちがそう決めるなら」 無論不安はある。 だが白竜がそう決めたなら、なによりも信じられる。 「この状態だから虎丞さんにはお手数掛けると思いますけど 「遠慮しなくていいからね。出来ることはするよ。 「はい」 「虎丞、式のやり取りはできるだろう?」 「できるよ」 「何かあったら飛ばせ」 「わかってる」 蛍雪はゆっくりと立ち上がった。 「準備してきますね」 「すみません。少し外します」 互いの手を重ね、白竜と蛍雪は部屋を出た。 |
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