Crossing Road


2人になり、虎丞は一番大きな懸念を口にした。

「絽帆、そんな相手に術師だなんてばれたら」

「まあ、殺されるだろうな。
 術師なんて、妖しからみれば敵中の敵だろう」

絽帆はまるで他人事のように言ってのけた。

「呑気だね」

「死に行くつもりはないさ」

絽帆が倒れたらその時は。

失いたくないものは絽帆だろうか。それとも己の命。

絽帆が自分の心を知るはずもないが
漂々とした絽帆に何故か腹が立ってきた。

ふいと横を向いた。

「心配なんかしないからね」

「わかってるよ。心配される資格があるとは思ってない」 

「え、、、、」

視線を戻すと、深いワインのような瞳が自分を見ていた。

「この件が片付いたら話したいことがある。
 そのつもりでいてくれ」

「何」

「終わってからだ」

「絽帆、、、、」

結局、それ以上絽帆は口を開こうとしなかった。


「お待たせしました」

白竜と蛍雪が戻ってきた。

「離すよ、蛍雪」

蛍雪が頷くと、白竜の手が離れ虎丞の手が乗った。

「これは虎丞さんの手?」

「そう。離れるのは不安だろうけど頼ってくれていいからね」

「はい。絽帆さん、兄さんのことお願いします」

「全力で尽くす」

これが最後かもしれない。

4人ともに、その思いはあった。

だが、「最後」という言葉を口にしたくない。

「絽帆、片付いたら話してくれるんだね」

「約束する」

その約束は、また会うための約束となるだろう。

白竜は蛍雪を優しく見つめ
蛍雪は白竜を心の中で思った。

「そろそろいいかな」

「兄さん」

「大丈夫、すぐに会えるよ」

「、、、そうだよね。それじゃあ行ってくる」

「ああ」

「お願いします。虎丞さん」

大切な人の面影を胸に、虎丞と蛍雪は家を後にした。


戻った虎丞はひとまずリビングに入った。

そして蛍雪をソファーの前に立たせる。

「今ソファーの前に立ってる。そのままゆっくり座って」

「はい」

危なくないことを確かめて蛍雪に手を添えた。

「位置は大丈夫だね。少し待っててくれるかな。
 部屋片付けてくるから」

「僕はどこでも。ほんとに隅で」

「絽帆の部屋でいいよ。足元に物がないようにしておくね」

「すみません」

足音が遠ざかり扉が閉まる音がした。

「こんなことになるなんて」

妖しと人。憎むしかないのだろうか。

少なくとも自分たちの父と母は
憎しみではなく愛するという感情で互いを求めた。

だから、こうして存在しているはずなのに。

虎丞も憎んでいたと言った。だから絽帆と会ったと。

今はどうなのだろう。

妖しと対立していた人里の人間と暮らしている今を
どう思うのか。

そんなことを考えながら待っていると
戻ってくる足音が聞こえ扉が開いた。

「お待たせ」

「いえ」

向かいに座った虎丞は、1つの問いを投げた。

「気を悪くさせるかもしれないけど
 1つ訊いていいかな」

「何ですか」

「人を憎いとは思わなかったの」

半妖となれば、人からも妖しからもいい見方はされないだろう。

それでも人の中であんな風に生きていることが不思議だった。

抱いた憎しみを消せたというのなら
何があったのか知りたかった。

「僕たちは人里で屋敷に閉じ込められていました。
 人は疎ましげに見てた。僕たちは罪の証だって。
 どうしてなんだろうって思った。
 誰にも認められない存在なら、いなくても同じなのに」

「、、、、、どうして生きていられたんだ。そんな中で」

「兄さんがいてくれたから」

「、、、、、」

「100人が周りにいて99人が僕を拒絶しても
 1人が僕を抱きしめてくれたから。
 その人を僕も守りたいって思った。
 人を憎んでもいいだけの理由はあったかもしれません。
 でも、99人を憎むより1人を守りたかったんです」

「、、、、、」

「だけど、目が見えなくなって結局守られるばかり。
 兄さんに頼ることしかできなくて。
 それが悔しくはありますけど」

「、、、、、強いね」

「僕が、、、ですか?」

その評価は蛍雪にとって意外なものだった。

頼りっぱなしの自分が強いなどと思ったことはない。

だが虎丞からみれば
感情に任せたまま荒れていた自分よりもずっと強く思える。

「僕は、怒りにまかせてただ憎んで人を手に掛けてきた。
 互いを信じて、人の中で生きてきたあなたたちのほうが
 強い心を持ってると思うよ」

「、、、、、絽帆さんとはどうして」

「絽帆を襲った」

「、、、、、」

「絽帆が術師なのは聞いてる?」

「はい。妖しに対抗できる力があるって」

「外見だけじゃ術師なんてわからないから
 襲ってみたら術師だった。
 絽帆の力が僕より上で返り討ちにあったのさ。
 あの時、絽帆は僕を殺そうと思えばできたんだ」

そう。なのに絽帆は自分を生かしている。

「だけど絽帆は僕を生かしてる。
 僕の肩には珠が埋め込まれていてね。
 ここに絽帆が送っている力で、生きていられるんだって。
 だから絽帆が死んだら、僕も同じことになるらしい」

「え、、、待って下さい。じゃあ、もしも」

「絽帆が倒れれば、きっと僕も」

「そんな、、、」

「気にしなくていいよ。
 承知の上で首を突っ込んだんだから。それに」

「それに、、、、」

「この件が片付いたら話があるって言った。
 それは聞かせてもらわないとね」

絽帆と虎丞も見えない珠葛で繋がっている。

虎丞にとって、それは束縛か絆なのか。

「絽帆さんのこと」

「どう思ってるか聞きたい?」

「聞かせてもらえるなら」

「正直わからないんだ。自分でも。
 絽帆の話を聞きたい気もするし、聞くのが怖い気もする」

「虎丞さん、、、、」

(だから、あれが最後なんて許さないよ。絶対に)

流れる風に、虎丞はそんな想いを乗せた。

















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