Crossing Road


「妖しなんだな」

「正確には半妖です」

「人と妖しの間に生まれた?」

「父が妖し、母が人だったと聞いています。
 けれど顔も名前も覚えていません。
 物心ついた時には人里で軟禁状態で生かされていました。
 蛍雪が光を失ったのはその頃です」

「母親が人、、、、じゃ白竜たちが」

「知ってるんですか?私たちの親のことを」

直接は知らないが、悪い言い方で噂にはなっていた。

そしてその子供と父親は、いつか必ず人に牙を向け
人の里に恐怖をもたらすと。

だが、実際は。人の心は強く脆い。

「俺が妖しか人かっていえば人だ。人里に住んでた」

「同じ人里に住んでいたんですか?
 だから妖しを知っていたんですね」

「僕たちの親のことは?」

「直接は知らないが
 妖しとの間に子をもうけた女がいるとの噂はあったよ。
 いい言われ方はされてなかった」

「わかります。私たちに向いていた人の目や態度を思えば」

「白竜たちも囚われていた場所からキエヌに逃れた。
 そして運よく前のオーナーと知り合いになった。そんなところか」

「はい」

「絽帆さん、今夜はどうして兄さんと一緒になったんですか」

先に白竜が絽帆を見た。

「あの時何をしたんですか?
 人だと言うけれど、人にも妖しと同じことができると?
 だったら、人と妖しと何が違うんです」

「人里にいた人間全員ができることじゃない。
 実際、俺以外に妖しと同じことができる誰かなんて
 聞いたことなかったしな。
 俺は術師と呼ばれていたよ。聞いたことあるか?」

「術師、、、、いえ、ありません」

「僕も初めてです」

「妖しに対抗できる力を持った者。そんな言い方をされてた」

「僕たちが人じゃないって、わかっていたんですか?
 それとも、わかるような何かがあって兄さんと」

「俺は最近新聞を騒がせているやつを追ってたんだ。
 正体不明の牙を持った誰かを」

「あの男、、、、やっぱり」

「襲われた後か」

「それって、、、兄さんが?怪我は」

「いや、大丈夫だ」

「ここ何日か通行人が襲われてる。
 首に牙のような傷跡があって、記憶の一部が抜け落ちている。
 普通の人間にはできない芸当だから、もしかしたらと思って
 外を歩いていたんだ。そしたら座り込んでる白竜がいてね」

絽帆は視線を投げた。受けた白竜が後を受ける。

「知らない男に引っ張り込まれて
 確かに牙のようなものがあたりました。
 振り払おうとしたら音がして、一瞬光が包んだ。
 手元で何かが音を立てて、私は何が起きているのか
 わけがわからなくて。
 そこに絽帆さんがきたんです」

「今まではなかったことだろう?」

「はい」

「強引な解釈かもしれないが、相手が妖しだったから
 白竜の中の妖しの部分が反応したのかもしれない」

「また出会ったらどうすればいいんですか?
 絽帆さんがきてくれたからよかったけれど
 町の人に見られたら、それこそ私が人ではないと知られる」

「免疫のようなものだから
 出会ってもああはならないだろう。ただ、、、、」

向こうも同じ妖しがキエヌにいることを知った。

襲うためではなく、別の意味で接触するかもしれない。

自分の側に、同じ憎しみの中に引き込もうと。

「気を悪くさせるかもしれないけど、聞かせてくれ」

「はい」

「人が憎いか?」

「そんなこと考えてません」

早かったのは蛍雪だった。

「確かに、人は僕たちをうとましく思ってた。
 だれも手を差し伸べてはくれなかった。
 あの場所で、僕には兄さんしかいなかった」

「蛍雪、、、、、」

「でも、僕たちを生かしてくれたのも人なんです。
 この町の人たちが生かしてくれた。
 兄さんと生きている今を大切にしたい。そう思ってます」

「私も同じです。守りたいものは蛍雪と今。
 この町の人たちを憎む理由はありません」

「わかった。ありがとう」

人の中で生きてきた2人だ。嘘ではないだろう。

あの犯人と接触させたくはないが
所在がわからない以上、防ぐのは不可能に近い。

幸い遠くはないし
絽帆は出来るだけの注意を払うことにした。

そしてもう1つ。

虎丞が妖しであることは、伝えるべきか。

自分も多少は妖しを知るが
虎丞にしかわからないこともあるかもしれない。

「それからもう1つ。
 蛍雪は知らないと思うけど、白竜は俺の連れわかるよな」

「ええ、、、、わかりますが」

「虎丞も妖しだ」

「あの、、、、虎丞さんが」

「虎丞さん、、、、」

「妖しの里からキエヌに逃れてきた。
 まあ、成り行きだけど一緒に住んでるんだ」

「そうでしたか」

「虎丞にその気があれば、妖しとして会ってみるか?」

「兄さん、、、、」

妖しが近くにいるとわかれば心強い。

人の中で生きていくためにも知り合っておきたい相手だ。

「お願いします。会わせて下さい」

「店を開ける前に連れてこよう。午前中なら大丈夫か?」

「はい」

「虎丞さんは憎まずに生きているんですよね。
 僕に兄さんがいてくれるように、絽帆さんがいる」

「どうだろう、、、、。
 虎丞がどう思っているか、あまり考えたことはない」

もしかしたら、虎丞が一番憎いのは自分かもしれない。

虎丞にとって絽帆の存在は呪縛。

「さっきも言ったように成り行きだから
 先のことはわからないよ」

絽帆は席を立った。

「そろそろいいかな」

「長くなってすみません。ありがとうございました」

「ありがとうございました」

白竜の手はずっと蛍雪に添えられていた。

互いの存在がどれほど大きいかは想像に難くない。

「それじゃ、また」

向きを変えた絽帆に、白竜と蛍雪は深く頭を下げた。


































2人の家を出た絽帆は夜空を見上げた。

雲はいつの間にか流れ、重なりそうなほど近い星が瞬いている。

「人と妖しか、、、、」

あの2人の父と母も、並んで共に歩く未来を夢見たのだろう。

絽帆には、輝く星の光がそんな願いの残像に見えた。

 


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