パンドラの箱(V)

落とした灯りの中、時計の音だけがやたらと大きく聞こえてくる。

「ルディ、、、」

病院へ行ったルディがいつもなら帰る時間になっても戻らない。途中で発作が起きてもおかしくはなかった。

休めればいいのだけれど、人気のないところで動けなくなることだけが怖かった。

「頼んでいけば大丈夫よね」

行き違いになったときのことを用心して、隣に声をかけて探しに行こうとしたときだった。

「アントワネット」

「ルディ、、、」

ルディはアントワネットを腕に収める。

「遅くなってすみませんでした。途中で休ませてもらっていたので」

「よかった、、、。食事まだでしょう。すぐ作るわ」

アントワネットは夕食の準備にかかる。ルディに気づかれないよう、落ちた涙をそっと拭いた。


食事を終えて温かいお茶で一息いれる。画廊「銀月」のオーナーの交代は、アントワネットにとっても初耳だった。

「そう。怪盗の銀月のほうも名前聞かなくなったわね」

「ええ。その話もしましたよ」

「前のオーナーが怪盗の銀月だったのかしら」

「そうかもしれません」

時計が鳴った。

「休みましょうか。今日は疲れたでしょう」

立ち上がり背を向けたアントワネットをルディは引き止めた。

「アントワネット、病院での話を少しだけいいですか」

言ってしまいたかった。自分だけで抱えているのはきつい。

「ドクターに新しい器具を見せてもらいました。
 それを使うことで今よりは安定します。
 私自身ではどうにも出来ない部分を補ってくれる。
 ただ、それを埋め込むための手術に少し問題があるんです」

「難しいの?」

「前例がほとんどないそうです。だから成功率がでない。
 それと私自身の体力の問題もあります。
 最悪失敗すれば、そのまま目覚めることはありません」

「パンドラの箱、、希望を取るためには」

「リスクが大きい」

「それでも、選ばなきゃいけないのよね」

危険な賭けだった。

可能性があるのなら賭けてみたい。

共に過ごせる時間が少しでも長くなるのなら。

だが、もし失敗したら。失うことになったら耐えられるのだろうか。

アントワネットの心のせめぎ合いはルディにもわかる。背中からそっと抱きしめた。

「あなたといられる時間が少しでも長くなるのなら、それが一番の望みよ。
 だけど、、あなたを失いたくない」

「どちらかになんて決められませんよね。私だって同じ。
 今日明日ではありませんから、もう少し整理してみます」

「ねえ、ルディ」

「はい」

「あなたが好きよ」

「私もです」

どちらからともなく唇が重なった。今を己に刻み込むように。



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