

パンドラの箱(U)
店先に出た瑞樹はなかなか戻ってこなかった。
「お客様だよね、、きっと」
この店で出来ることがないか、それを考えてみる。店番とお茶を出すくらいなら出来るだろうと考えた。
すぐ実行に移そうとしたときに瑞樹が戻った。
「どうしたの?その人」
「店の中で倒れてた」
気を失っているのか瑞樹の腕に抱かれた相手は動く気配がない。
長いブロンドが揺れる。そのまま静かにソファーに下ろした。
「瑞樹さんの知ってる人?」
「いや、覚えないな。
愁馬、表にでてる看板を中に入れて、店に鍵かけてきてくれ」
「わかった」
愁馬が出るのを確かめると、瑞樹はアルコールを探した。
いくつかある中から強めのものを選び口移しで流し込む。
「ぅ、、、ぐ、、ゲホッ!」
「、、、気がついたか」
「はぁ、、、。ここは、、、、」
開いた瞳は美しいエメラルドとアメジスト。ゆっくりと部屋を見渡す。
「店の中で倒れてたんだよ。覚えてないのか」
「あ、、すみませんでした。急に気分が悪くなって休ませていただけないか
伺おうかと思ったんです。お手数お掛けしました」
「名前は?私は瑞樹」
「ルディです」
「終わったよ」
愁馬が戻った。ルディが目覚めているのを見ると、新しいお茶を差し出す。
「どうぞ」
「ありがとう」
「、、、綺麗だね」
愁馬はルディの瞳を覗き込んだ。
「これですか?もともとこうなんですよ。どうしてだかはわかりませんが」
「僕、愁馬です」
「ルディといいます。ところで、ここは」
病院から戻る途中でいつもの発作に襲われた。
近くの店、つまりここに入ったものの、ここが何処なのかまで気にする余裕はなくそのまま気を失ったのだろう。
「画廊、銀月」
「銀月、、、でもオーナーは」
瑞樹の答えにルディは聞き返していた。
同じ通りにある画廊。ここならば、家ともそう遠くはない。だがオーナーの名前も同じ銀月だったと記憶している。
「前のオーナーの銀月から譲り受けたばかりなんだ。
銀月は他の意味で有名だろうけど」
銀月は町を賑わせている怪盗の名前でもあった。
月の美しい夜に現れる古美術専門の怪盗紳士。
だが、ここしばらくその名前も聞かない。
「そうでしたか、、、。最近、怪盗のほうの銀月は静かですね」
「今頃どうしているのかな」
そう呟く瑞樹が、懐かしく思い出しているように見えた。
「ありがとうございました。落ち着きましたからこれで。
また改めて伺います」
「1人で帰れる?一緒に行こうか」
「近くですから大丈夫。ありがとう、愁馬」
「どこなんだ」
「並びにある仕立て屋を知っていますか?
アントワネットという女性が店主をしている」
「ああ、、あそこね」
アントワネットのほうには覚えがあった。少し気の強そうな仕立て屋の女主人。
「遠くはないは。気をつけて」
「はい。では失礼を」
「玄関までいってくるね」
先に歩き出したルディを愁馬が追いかける。
空いたカップを片付け終わったところで愁馬が戻った。
「さて、やってしまわないと遅くなるな。もう少しだけ待っててくれ」
「は〜い」
簡単に部屋を片付けると2人も店を後にした。