

パンドラの箱(T)
港から広場に向かい、そして町を貫く大通り。構えのいい店が並びいつも大勢の人で賑わっている。
その中の一つに「銀月」という名の古美術を扱う店があった。
一日の営業を終え店を閉めようとオーナーの瑞樹が外に出たとき
「瑞樹さん」
通りの向こうから瑞樹を呼ぶ声がした。
「愁馬か」
瑞樹に向かってきたのは家で預かっている愁馬だった。
「1人で来たのか?」
「だって、つまんないんだもん」
「私だって仕事だ」
「もう終わるんでしょう」
「まだ後片付けが残ってる」
「じゃあ、手伝う」
「まだ無理だよ」
「出来るよ。子供じゃないもん」
「、、、、、」
瑞樹から見れば十分子供なのだが、本人にそのつもりはないらしい。
「、、、とりあえず入れ」
手を止めて愁馬と店の中へと戻った。
愁馬は、瑞樹の友人の忘れ形見だった。愁馬の母は早くに亡くなり、そして父も他界したばかり。
この2人が周囲の反対を押し切っての駆け落ちだったため、愁馬の引き取り手が見つからなかったのだ。
見かねた瑞樹は引き取って、共に暮らすことにした。
とはいえ回りに同じくらいの年の相手はいない。愁馬にとっては瑞樹が一番近い相手だった。
といっても「瑞樹おじさん」と呼べるくらいのひらきはある。ようやくその呼び方を止めさせたばかりだった。
「父さんにはここに来るって言ってあるんだろう」
「言ってきた。あの、、ね、、」
愁馬が声を落とした。
「どうした?」
「おじいさまが正式に養子にならないかって」
「、、、ようやく言ったのか」
「知ってるの?」
「そうしたいってのは聞いてるよ」
瑞樹もその話は聞いている。
ただ、瑞樹の父の子供として迎えるにはどうしても年がひらきすぎていた。
「今日、明日で返事がほしいわけじゃないだろう。ゆっくり考えればいい」
「断った」
「、、、、、」
「おじいさまや瑞樹さんのこと嫌いじゃないよ。だけどそうなったら
僕が父さんや母さんの子供だって言えなくなる気がするんだ。
気にしすぎかもしれないけど、僕は」
「立派なことだよ。そこまで誇りに思えるっていうのは羨ましいな」
瑞樹は自分が父に反発していたころを思い出した。
自分も、そんなふうに見れる時がくるのだろうか。
「断ったけど、それでも一緒にいていい?」
「父さんだってそれを理由に出て行けなんて言わないだろう」
「おじいさまは居てもいいって」
「私だって同じだ」
「ありがとう」
愁馬の表情が明るくなる。つられて瑞樹も微笑んでいた。
「片付けるから、少し待っててくれ」
そういって瑞樹が片付けに入ろうとしたときだった。店先のほうで音がした。
「お客様かな」
「扉を開けただけにしては乱暴だな。愁馬、ここにいろよ」
念を押して店先へ出て行った。