

黒水晶 〜 オニキス 〜 の姫君
祭りから数日が過ぎたランスの店。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
店を訪れたのはシャルミラだった。
「今お持ちします。座っていてください」
言うとランスは奥へ入り、箱と袋を抱えて戻ってきた。
「お預かりしていた分です」
「いつもありがとう」
目の前におかれたそれを、確認しながら袋に詰め替えていった。途中で、シャルミラは手を止めた。
「気のせいだろうか」
一言呟き最後の硬貨を入れるとランスを見る。
「いつもより多い気がしますけど」
「ええ。お持ち頂いた分とは別に
キュリオ様の心の宝石も入っていますからね」
「キュリオの?」
「祭りの最終日、広場にいらしたでしょう」
「、、、、、」
「気がつきませんでしたか?」
「では、、、やはり」
あの日、シャルミラは広場にいたのだ。
舞台からは見えにくい位置であったため
気がついたのはランスだけだった。
「キュリオ様には本当のこと言ったんですか?」
「いえ。確信はありませんでしたし、キュリオが話さなかったのは
私に知られたくなかったからでしょう。祭りには行っていないと」
「そういうことにしておいてあげて下さい。
方法は別として、シャルミラ様の為に懸命だったのは本当ですから」
「本当に、あなたには助けられてばかりです」
キエヌに生まれ、キエヌに生きる人でありながら有翼の流れを汲む者。
自分達の事情をわかっているランスは、頼りになる大きな存在だった。
宝刀の件にしても、ランスから見れば巻き込まれただけだろう。
それでも変わらずにいてくれる。
あずかり知らぬ遠い過去を受け止めているランスを、強いと思うのだ。
「私達は関わる必要などなかった事に、あなたを関わらせてしまった。
そのせいで、辛い思いもさせているかもしれないけれど」
「いえ。退屈しないで済んでいますから、その点はよかったと思います」
「ランス、、、」
「ここの店番だけじゃ暇でしかたありませんから」
どこまでが本音かわからない物言いはいつものこと。
シャルミラとて、触れられたくない部分まで踏み込むつもりはない。
「もし、向こう側との間で何かあったら言ってくださいね」
「ええ」
そう返した後、ランスは視線を外し空の一点を見つめた。
「ランス?」
「もし、僕たちが向こう側を知っていて交流があったとしたら
この世界はどんな世界だったんでしょうね」
「、、、、、」
「お2人だって、言わなければこちら側の人と変わらない。
同じように毎日すれ違っている人が、向こうの人かもしれない。
この先、平行線が交わることはあるんだろうかって、時々思います」
それは、シャルミラには思いもつかないことだった。
互いを知り、行き交うという可能性はあるのだろうか。
考え込んでしまったシャルミラに
いつもの調子に戻ったランスの声がかかる。
「聞き流してください。別に深刻になっているわけじゃありません。
キュリオ様のお気持ち、大切にしてあげてください」
キエヌに生きる人でありながら両方を知っている。そのランスだからこその想いなのだろう。
そしてシャルミラも想う。有翼と人の側も含めて一つの世界になったらと。
争いはなくならないだろう。思想。感情。異なるそれらがぶつかり合うことで、世界は動くのだから。
それでも悪い世界ではない気がする。
「もし、そのような世界になったら新しい喜びが見つかりそうな気がします。勿論、悲しみも生まれるでしょうけれどね。では、今日のところはこれで」
「またどうぞ」
キュリオの想いを手にして、シャルミラは店を後にした。