黒水晶 〜 オニキス 〜 の姫君


「よかった。陽が落ちる前に戻れて」

空は鮮やかな夕焼けだった。

約束を守れたことに胸を撫で下ろし、キュリオは塔に入った。

「、、、、シャルミラ、いなかったよね。広場には」

舞うことで手一杯だったため探す余裕などなかった。だが自分から尋ねれば、やぶへびになる可能性が高い。

せめて今塔にいるかだけでも確認しておこうと、まずリビングに向かった。


「お帰りなさい」

本を広げていたシャルミラは、キュリオに気がつくとそれを閉じた。

「ただいま」

今日外に出たか尋ねてみようか。止まったまま考えるキュリオに、シャルミラは首をかしげる。

「どうしたんですか。入り口で止まったままで」

「あ、、ううん。なんでもない」

「新しいお茶にしましょう。座っていていいですよ」

「(、、、、、黙っていたほうがいいかな。逆に訊かれても困るし)ありがとう」

受け答えでぼろを出すよりは黙っているほうを選び、ソファーに座った。

と、シャルミラから思いもしない言葉が出た。

「町は賑やかだったでしょう」

「え?」

「確か、祭りの時期だったと思いますよ」

「、、、、、」

シャルミラからこの話が出るとは思わず、唖然と見つめ返す。

「ランスのところに行ったのでしょう?」

「う、、、うん。賑やかだったよ。人も多かったし」

「他の町からも人が集まりますからね」

キュリオの心を知ってか知らずか、シャルミラの話は続く。

「古くから続く祭りだそうですよ。何でも町に伝わる恋物語が発祥だとか」

「そう、、、なんだ」

キュリオの鼓動はひときわ大きくなった。

が、どうせ出た話ならと、キュリオは訊いてみることにした。

「、、、、シャルミラも、お祭り見に行ってたの?」

「いいえ。人ごみはあまり気が進まないので」

「そう(、、、よかった)」

思わず安堵のため息が出た。

「あ、いいよ。こっちで」

「ありがとう」

ぐるりと回り込もうとしたシャルミラに、キュリオは自分が動いた。

「でも、、、、そうですね」

トクンと一つ鳴り、隣に座ったシャルミラの言葉を待つ。

「せっかくキエヌのいるのだから、一度くらい行ってみてもいいかもしれませんね。
 2人で行けば、また違う何かを見つけられるかもしれない」

「シャルミラ、、、、」

「人ごみを一人で歩くのは疲れるだけですが、キュリオとなら楽しい思い出に出来そうな気がします」

「ほんと、、、に?」

「ええ」

じわりとキュリオの瞳が潤んだ。

「ごめん、、、なんで」

止めようと思っても止まらない。理由などわからなかった。

キュリオが落ち着くまではと、シャルミラは何も言わずに待った。

先を急かすのではなくゆっくりと。

何も言わずとも、キュリオにはそれが伝わる。

「(ほんとに、ありがとう)」

心の中で告げると、雫を拭いシャルミラに向き直った。

「ごめんね。大丈夫」

シャルミラは優しく頷いた。

「今年の祭りはいつまででしたか」

「今日が最終だって、ランスは言ってた」

「では来年ですね。先になってしまうけれど」

「来年か、、、、あと何回日付が変わればいいんだろう」

キュリオは一年後の今日を思いながら指を折る。

「考えると長いけれど、嫌でもきますよ」

「嫌なんかじゃないよ。シャルミラとなら何処へだって行ける」

そう、シャルミラの隣なら、キュリオは何でも出来る気がした。

「ねえ、シャルミラ。僕に出来ることがあったら何でも言ってね」

「ええ。頼りにしています」

誰かに必要とされることは、己の存在を受け入れる要素であり喜び。

その喜びが、キュリオの心を満たしていった。


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